あえかなる君へ 心からの愛を
報告書を書き終えて「こっちはできたぞ」と隣を見ると、乙葉はキーボードに手を置いたままうとうとしていた。

「堀井?」
「ん……あ、ごめん」
「疲れてるな、あとは俺がやるよ」
「でも……」
「いいから、仮眠室で休んでろ。今部屋を押さえるから」
「大丈夫……」

そう言いつつ、乙葉のまぶたは半分閉じかけている。

「無理するなって。報告書書き終わったら起こしに行く」

パソコンで仮眠室をひと部屋押さえてから、乙葉の腕を取って立ち上がる。

乙葉の足取りはおぼつかなく、柊は肩を抱いて支えた。

「すぐベッド作るから、待ってろ」

向かい側のソファに乙葉を座らせると、クローゼットから枕やシーツ、ブラケットなどを取り出す。

「堀井、できたぞ」

ベッドメイキングを終えて振り返ると、乙葉は背もたれにもたれて完全に寝入っていた。

(よっぽど疲れてたんだな)

そっと乙葉を抱き上げてベッドに運ぶ。
靴を脱がせて身体を横たえようとして、しわになるかもと思い、ジャケットを脱がせた。
するとジャケットの左胸に柊が贈ったブローチが着いているのに気づく。

(これ、着けてくれてたんだ)

長い髪に隠れてよく見えていなかったが、これまでも乙葉はこのブローチを着けてくれていたのだろう。
いつもキラリと何かが光っていたのを思い出す。
柊は思わず頬を緩めた。
きっとこのブローチを心の支えにしていたのだろう。

(素直に助けてって言えばいいのに)

けれどそうしないのが乙葉なのだ。
いや、したくてもそうできない。
誰よりも努力家で、誰よりも寂しがり屋。
仕事をバリバリこなす高嶺の花のような存在だけど、それは必死に気を張っているせい。
本当は子どものように無邪気で明るく笑う子なのだ。

柊は乙葉をベッドに寝かせると、スヤスヤ眠る横顔を優しく見つめた。
仕事の時とは違う、無防備であどけない乙葉の素顔。

(こっちが本来の堀井なんだ。重荷を背負って鎧を着て、どんどん自分を追い詰めて……。だけど本当は誰よりも繊細で傷つきやすい女の子。雷もおばけも怖いし、誰かに抱きしめられたくて、丸めた布団に抱きつく子。どこまで一人でがんばるつもりだ?)

そっと頭をなでて耳元でささやく。

「乙葉」
「……ん?」

乙葉が目を閉じたままかすかに返事をした。

「俺のところにおいで、ずっと守ってやるから」
「……うん」

乙葉は甘えるような声で頬を緩めた。
顔の横にある華奢な手を握ると、乙葉もキュッと小さく握り返してくる。

「約束したからな。忘れるなよ?」

乙葉は幸せそうにふわりと笑みを浮かべてから、スーッと気持ちよさそうに深い眠りに落ちていった。
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