あえかなる君へ 心からの愛を
「いらっしゃいませ、森住さま。お待ちしておりました」
「こんばんは、駒田さん。今夜は新郎新婦のお二人が招待されるはずだったのに、すみません」
「とんでもない。お二人もじきに新郎新婦になられるでしょうから。さあ、どうぞ」
はいと答えつつ、乙葉と柊は「ん?」と何かが引っかかった。
「今夜は窓際の特等席をご用意しました。こちらはプライベートなスペースとなっております」
案内されたのは大きなクリスマスツリーのすぐそばで、小さな階段を下りたその席は周りからは死角になっていた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
駒田が引いてくれた椅子に腰を下ろすと、きれいに飾られたテーブルにキャンドルの明かりが揺れていた。
二人はノンアルコールのワインをオーダーし、早速乾杯する。
「メリークリスマス」
改めて向かい合うとなんだか照れてしまい、乙葉は視線を落としてグラスを傾ける。
「あれから一年か、早かったな」
ポツリと呟いた柊の言葉に「そうだね」と頷いて、乙葉もこれまでのことを思い返した。
「一年前のクリスマスは、もうすぐ紗理奈さんがいなくなってしまうってどこか寂しかった。でも今は、もうすぐ戻って来てくれるって嬉しい。私、ちゃんと紗理奈さんの留守を守れたかな?」
すると柊が真剣な眼差しで「もちろん」と見つめてきた。
「堀井は本当によくやったと思う。もっともっと泣きごと言ってもよかったんだぞ? 広報のいつもの業務だけでも主任として大変だったのに、グッズサイトに嫌がらせまでされて、部長に詰められて……。一人で心細かっただろ? 本当によくやったな」
「ううん、そんなことない。広報課のみんなともだんだん親しくなれて、神田さんも助けてくれたし。何より森住がいてくれたから、とっても心強かった。ありがとう」
そう言って乙葉はそっと左胸のブローチに手をやる。
「これね、私の大切な宝物なの。いつもこのブローチが勇気をくれた。くじけそうになった時、この真珠の輝きが私を支えてくれたの。ありがとう、森住」
「どういたしまして。その真珠の輝きは堀井の内面の美しさそのものだ。俺はいつもそのブローチを見て、堀井にぴったりだと思ってた。よく似合ってる」
真っ直ぐにそう告げられ、乙葉は「ありがとう」とはにかむ。
どうしていいやら気恥ずかしさに頬を赤らめていると、「お待たせいたしました」と料理が運ばれてきた。
「わあ、今回もとっても豪華だね。美味しそう」
二人でじっくりと美味しいコース料理を味わう。
「森住、キャビアが出てきたら教えて」
「さっきのマリネに載ってた」
「えっ、いつの間に?」
そんなことを話しながら、最後のデザートまで楽しんだ。
「では改めて、メリークリスマス」
乙葉は柊にラッピングしたマグカップを差し出す。
「去年選ばれなかったBのお品でございます」
「おっ、ひょっとしてマグカップか?」
「うん、そう」
丁寧にラッピングを解いて箱を開けた柊が「おお!」と嬉しそうに笑う。
「いいな、このカップ。あのペーパーウェイトと並べよう。ありがとな、堀井」
「ふふっ、一年お待たせしました」
「じゃあ俺からはこれを」
差し出されたのは、思っていたよりも大きな箱。
「えっ、なんだろう? びっくり箱とか?」
「ははは! お前はほんとに怖がりだな。違うから、開けてみな」
「うん」
乙葉はドキドキしながらそっと箱を開けてみた。
「えっ、すごい! これってプラネタリウム?」
「ああ。紗彩ちゃんへのプレゼントを選んでいた時、ほしそうにしてたから」
「嬉しい! 毎晩これで星空を楽しむね。スピカ、見つけられるかな?」
すると柊が「俺が教える」と言う。
「あっ、テレビ電話でってこと?」
「違う。一緒に観るから」
「一緒に? だって別々の部屋じゃない」
「ああ。だから一緒に住もう」
乙葉はポカンとしたまま柊を見つめた。
「堀井、聞いてる?」
「聞いてるけど……。一緒に住むって、恋人同士のすることじゃない?」
「そう。だから恋人になろう」
「いやいや、恋人って好きな人同士がなるんだよ?」
「俺はちゃんとお前が好きだから問題ない」
あまりにさらっと言われて頭がついていかない。
「森住、今なんて?」
「俺はお前が好きだ」
「えっ、あの……?」
戸惑っていると、柊が真剣な眼差しで告げた。
「堀井、誰よりも傷つきやすいのに誰よりもがんばるお前を、俺はどんな時も支えたい。人一倍怖がりなのにたった一人で夜を過ごすお前を、これからは俺がそばで守りたい。嵐の夜も、ハロウィンの夜も、仕事で悩んで心細い夜も、丸めた布団に抱きつくお前をこれからは俺が抱きしめて温めたい。だから堀井、ずっと俺のそばにいろ」
「森住……」
乙葉は何も言葉が出てこない。
すると柊が優しく尋ねた。
「俺のこと、嫌いか?」
「ううん、まさか」
「雷が鳴ったりおばけが来たら、俺がいた方がいいだろ?」
「うん」
「丸めた布団より、俺に抱きついた方があったかいだろ?」
「うん」
「だったらこれからはずっと俺のそばにいろ。どんな時も必ず俺が守るから」
「うん……うんっ」
乙葉の瞳から大粒の涙があふれた。
柊は、ふっと笑って乙葉の頭をなでる。
「泣いていいのは俺の前でだけだぞ?」
「うん」
「他の誰にもそんな可愛い顔見せるな。言い寄られたら恋人がいるって断れよ?」
「うん」
「相手は誰だって訊かれたら、世界で一番かっこいい森住柊だって言ってやれよ?」
「うんっ!」
「ははっ、素直だな」
明るく笑ってから、柊は優しく乙葉の顔を覗き込む。
「ずっと前から誰よりもお前のことが好きだったんだ」
「私も、あなたのことが大好きだったの。気づいたのは今だけど」
「おもしろいこと言うな」
「森住ほどじゃないわよ」
笑い合ってから、柊がふと周りに目を向ける。
「ここって、誰にも見えない席だよな?」
「うん。だって私たちからも誰も見えないもん」
「じゃあ、キスしてもいいよな?」
「ちょっと、どうしてそうなるのよ」
乙葉は真っ赤になって視線をそらす。
「乙葉」
「えっ……」
名を呼ばれて顔を上げると、柊が腕を伸ばして乙葉の顎をすくい上げる。
そのままゆっくりと顔を寄せ、唇にそっとキスをした。
甘くて優しい初めてのキス。
乙葉のまつげがかすかに震え、胸の奥がジンとしびれた。
「乙葉、顔が真っ赤だ」
「だって、その、森住が知らない人みたいにかっこよくて、どうしていいのか……」
「じゃあ、もう一回しよっか」
「どうしてそうなるの?」
「慣れだよ、慣れ」
「もう……そんなこと言って」
その時、ふと視線を感じて乙葉はすぐ横のガラス窓を見た。
「も、森住!」
「ん? どうした」
乙葉は黙って窓ガラスを指差す。
満面の笑みを浮かべた駒田と、ガラス越しに目が合った。
「え、まさか……」
二人で顔を見合わせていると、「失礼いたします」と駒田が小さなホールケーキを運んできた。
そこに書かれていた文字は
【Congratulations on your engagement!】
「え、あの、駒田さん?」
「おや、違いましたか?」
すると柊が「違いません」ときっぱり答える。
「そうでしたか、よかった。パーティーのご用命、心よりお待ちしております」
そう言って笑うと、駒田はうやうやしくお辞儀をして去っていった。
「こんばんは、駒田さん。今夜は新郎新婦のお二人が招待されるはずだったのに、すみません」
「とんでもない。お二人もじきに新郎新婦になられるでしょうから。さあ、どうぞ」
はいと答えつつ、乙葉と柊は「ん?」と何かが引っかかった。
「今夜は窓際の特等席をご用意しました。こちらはプライベートなスペースとなっております」
案内されたのは大きなクリスマスツリーのすぐそばで、小さな階段を下りたその席は周りからは死角になっていた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
駒田が引いてくれた椅子に腰を下ろすと、きれいに飾られたテーブルにキャンドルの明かりが揺れていた。
二人はノンアルコールのワインをオーダーし、早速乾杯する。
「メリークリスマス」
改めて向かい合うとなんだか照れてしまい、乙葉は視線を落としてグラスを傾ける。
「あれから一年か、早かったな」
ポツリと呟いた柊の言葉に「そうだね」と頷いて、乙葉もこれまでのことを思い返した。
「一年前のクリスマスは、もうすぐ紗理奈さんがいなくなってしまうってどこか寂しかった。でも今は、もうすぐ戻って来てくれるって嬉しい。私、ちゃんと紗理奈さんの留守を守れたかな?」
すると柊が真剣な眼差しで「もちろん」と見つめてきた。
「堀井は本当によくやったと思う。もっともっと泣きごと言ってもよかったんだぞ? 広報のいつもの業務だけでも主任として大変だったのに、グッズサイトに嫌がらせまでされて、部長に詰められて……。一人で心細かっただろ? 本当によくやったな」
「ううん、そんなことない。広報課のみんなともだんだん親しくなれて、神田さんも助けてくれたし。何より森住がいてくれたから、とっても心強かった。ありがとう」
そう言って乙葉はそっと左胸のブローチに手をやる。
「これね、私の大切な宝物なの。いつもこのブローチが勇気をくれた。くじけそうになった時、この真珠の輝きが私を支えてくれたの。ありがとう、森住」
「どういたしまして。その真珠の輝きは堀井の内面の美しさそのものだ。俺はいつもそのブローチを見て、堀井にぴったりだと思ってた。よく似合ってる」
真っ直ぐにそう告げられ、乙葉は「ありがとう」とはにかむ。
どうしていいやら気恥ずかしさに頬を赤らめていると、「お待たせいたしました」と料理が運ばれてきた。
「わあ、今回もとっても豪華だね。美味しそう」
二人でじっくりと美味しいコース料理を味わう。
「森住、キャビアが出てきたら教えて」
「さっきのマリネに載ってた」
「えっ、いつの間に?」
そんなことを話しながら、最後のデザートまで楽しんだ。
「では改めて、メリークリスマス」
乙葉は柊にラッピングしたマグカップを差し出す。
「去年選ばれなかったBのお品でございます」
「おっ、ひょっとしてマグカップか?」
「うん、そう」
丁寧にラッピングを解いて箱を開けた柊が「おお!」と嬉しそうに笑う。
「いいな、このカップ。あのペーパーウェイトと並べよう。ありがとな、堀井」
「ふふっ、一年お待たせしました」
「じゃあ俺からはこれを」
差し出されたのは、思っていたよりも大きな箱。
「えっ、なんだろう? びっくり箱とか?」
「ははは! お前はほんとに怖がりだな。違うから、開けてみな」
「うん」
乙葉はドキドキしながらそっと箱を開けてみた。
「えっ、すごい! これってプラネタリウム?」
「ああ。紗彩ちゃんへのプレゼントを選んでいた時、ほしそうにしてたから」
「嬉しい! 毎晩これで星空を楽しむね。スピカ、見つけられるかな?」
すると柊が「俺が教える」と言う。
「あっ、テレビ電話でってこと?」
「違う。一緒に観るから」
「一緒に? だって別々の部屋じゃない」
「ああ。だから一緒に住もう」
乙葉はポカンとしたまま柊を見つめた。
「堀井、聞いてる?」
「聞いてるけど……。一緒に住むって、恋人同士のすることじゃない?」
「そう。だから恋人になろう」
「いやいや、恋人って好きな人同士がなるんだよ?」
「俺はちゃんとお前が好きだから問題ない」
あまりにさらっと言われて頭がついていかない。
「森住、今なんて?」
「俺はお前が好きだ」
「えっ、あの……?」
戸惑っていると、柊が真剣な眼差しで告げた。
「堀井、誰よりも傷つきやすいのに誰よりもがんばるお前を、俺はどんな時も支えたい。人一倍怖がりなのにたった一人で夜を過ごすお前を、これからは俺がそばで守りたい。嵐の夜も、ハロウィンの夜も、仕事で悩んで心細い夜も、丸めた布団に抱きつくお前をこれからは俺が抱きしめて温めたい。だから堀井、ずっと俺のそばにいろ」
「森住……」
乙葉は何も言葉が出てこない。
すると柊が優しく尋ねた。
「俺のこと、嫌いか?」
「ううん、まさか」
「雷が鳴ったりおばけが来たら、俺がいた方がいいだろ?」
「うん」
「丸めた布団より、俺に抱きついた方があったかいだろ?」
「うん」
「だったらこれからはずっと俺のそばにいろ。どんな時も必ず俺が守るから」
「うん……うんっ」
乙葉の瞳から大粒の涙があふれた。
柊は、ふっと笑って乙葉の頭をなでる。
「泣いていいのは俺の前でだけだぞ?」
「うん」
「他の誰にもそんな可愛い顔見せるな。言い寄られたら恋人がいるって断れよ?」
「うん」
「相手は誰だって訊かれたら、世界で一番かっこいい森住柊だって言ってやれよ?」
「うんっ!」
「ははっ、素直だな」
明るく笑ってから、柊は優しく乙葉の顔を覗き込む。
「ずっと前から誰よりもお前のことが好きだったんだ」
「私も、あなたのことが大好きだったの。気づいたのは今だけど」
「おもしろいこと言うな」
「森住ほどじゃないわよ」
笑い合ってから、柊がふと周りに目を向ける。
「ここって、誰にも見えない席だよな?」
「うん。だって私たちからも誰も見えないもん」
「じゃあ、キスしてもいいよな?」
「ちょっと、どうしてそうなるのよ」
乙葉は真っ赤になって視線をそらす。
「乙葉」
「えっ……」
名を呼ばれて顔を上げると、柊が腕を伸ばして乙葉の顎をすくい上げる。
そのままゆっくりと顔を寄せ、唇にそっとキスをした。
甘くて優しい初めてのキス。
乙葉のまつげがかすかに震え、胸の奥がジンとしびれた。
「乙葉、顔が真っ赤だ」
「だって、その、森住が知らない人みたいにかっこよくて、どうしていいのか……」
「じゃあ、もう一回しよっか」
「どうしてそうなるの?」
「慣れだよ、慣れ」
「もう……そんなこと言って」
その時、ふと視線を感じて乙葉はすぐ横のガラス窓を見た。
「も、森住!」
「ん? どうした」
乙葉は黙って窓ガラスを指差す。
満面の笑みを浮かべた駒田と、ガラス越しに目が合った。
「え、まさか……」
二人で顔を見合わせていると、「失礼いたします」と駒田が小さなホールケーキを運んできた。
そこに書かれていた文字は
【Congratulations on your engagement!】
「え、あの、駒田さん?」
「おや、違いましたか?」
すると柊が「違いません」ときっぱり答える。
「そうでしたか、よかった。パーティーのご用命、心よりお待ちしております」
そう言って笑うと、駒田はうやうやしくお辞儀をして去っていった。