あえかなる君へ 心からの愛を
その日から乙葉は荷物を少しずつ柊のマンションに移し始めた。
すぐに年末の休暇に入り、年が明けると双方の両親に挨拶に行く。
てっきり結婚の話をされると思っていたらしく、どちらの両親も「え、結婚はまだなの?」と拍子抜けしたようだった。
紗理奈からも『どういうこと?』と電話で尋ねられたが、乙葉は「柊が将来を見据えたおつき合いをさせてほしいって両親に」と話すと、『柊くんが? あの柊くんがそんな古風なことを?』と驚いていた。
以前、結婚情報誌に婚姻届が入っているのを見て「コンビニ寄ったついでに、みたいな感じで結婚はしない。お嫁さんをもらうんだから」と言っていた柊だけに、乙葉は柊のその行動は信じられた。
何より、毎日一緒に過ごせるだけで心が穏やかになり、幸せな気持ちでいっぱいになる。
それだけで乙葉は満ち足りていた。
「紗理奈さん、無事に紗彩ちゃんの保育園が見つかったって。予定通り四月から復帰してくれるの」
ある日の夕食でそう話すと、柊も「よかったな」と笑みを浮かべる。
「うん! もう楽しみで仕方ないの。紗理奈さんと一緒に仕事したら、もっともっと成長できる気がする」
「おっ、まだ背が伸びるのかな? 乙葉ちゃんは」
「そう。ぐんぐん伸びて……って、またそういうこと言うんだから」
「はははっ、大きくなれよ」
柊と交わす何気ない会話が幸せで、ありふれた日常が愛おしい。
ずっとずっとこの先も一緒に。
その想いは募るばかりだった。
そして三月二十五日、乙葉の二十七歳の誕生日を迎えた。
その日は月曜日で、仕事終わりに柊がホテルに宿泊しようと計画してくれる。
定時に上がると二人でまずは駒田のいる例のレストランでティナーを食べることにした。
「いらっしゃいませ、森住さま。本日はお誕生日おめでとうございます、乙葉さん」
例のごとくにこやかに出迎えてくれる駒田は、美味しいコース料理をサーブしてくれたが、最後に「私は気が長い方なのですが、それにしてもなかなか……」と苦笑いしていた。
恐らく結婚の報告を待ってくれているのだろうけれど、乙葉としては何も不満はない。
柊は相変わらず優しく頼もしく、どんな時も心の支えでいてくれた。
「乙葉、ホテルに移動しようか」
「うん! どんなところなのか楽しみ」
着いたのは海沿いのラグジュアリーなホテル。
客室からは月に照らされて輝く海と、きれいな星空が見渡せた。
「すてきね、静かでキラキラしてて、夢の世界に来たみたい」
窓からの景色に見とれていると、柊がそっと寄り添って尋ねる。
「乙葉、スピカわかる?」
「えっと、北斗七星をたどるのよね?」
「そう」
乙葉の後ろに立った柊が、後ろから腕を回して乙葉と右手を重ねた。
「あれが北斗七星。見える?」
乙葉と重ねた手で柊が空を差し、乙葉は「うん」と頷く。
「そこからこうやって下に行くと、オレンジ色の明るい星がある。あれがアークトゥルスで、乙葉にとっての俺」
乙葉は思わず頬を赤らめた。
「そのカーブをさらに伸ばしていくと、白く輝くきれいな星がある。あれがスピカ。俺にとっての乙葉だ」
「オレンジ色の柊の隣に、いつも私がいるのね」
「そう」
「でも春にしか見えないのか、ちょっと寂しいな」
そう呟くと、柊が両腕を回して乙葉を抱きしめた。
「乙葉」
呼ばれて振り向くと、優しいキスが落とされる。
「ん……」
柊の温かい胸に背中を預けてうっとりしながらキスを受け止めていると、やがて身体を起こした柊が耳元でささやいた。
「乙葉」
「なあに?」
「俺はどんな時も乙葉のそばにいる。たとえ空に星が見えない日でも」
そう言うと柊は乙葉と重ねた左手を目の高さに持ち上げた。
次の瞬間、乙葉はハッとして目を見開く。
「柊、これ……」
いつの間にか乙葉の左手薬指には、キラリと輝く指輪がはめられていた。
ダイヤモンドの両側に、小さな真珠の粒がなめらかな光を放っている。
言葉もなく見つめていると、柊がそっと乙葉のその手を取り、優しく「乙葉」と名を呼んだ。
「誰よりも繊細で、この真珠のように純真な乙葉。たくさん傷つきながら、それでも一人で自分を奮い立たせてがんばってきた健気な乙葉を、これからは俺が必ず守っていく。乙葉、もう一人でがんばらなくていい。泣きたい時は俺の腕の中で泣いて、寂しい時は俺が抱きしめて温める。どんな乙葉も俺は心から愛している。乙葉、俺と結婚しよう」
乙葉は目に涙を溜めて柊を見つめる。
「柊……、ありがとう。ずっと私を見守って助けてくれて、いつもそばで支えてくれて本当にありがとう。あなたに教えられて、私は自分の心の中の星を見つけることができたの。私を強くさせてくれる、道しるべのような星。それはあなた自身でもあるの。柊、あなたを見失いたくない。ずっとずっとそばにいてほしい」
「もちろんだ。俺と乙葉は二人並んで夫婦星だから」
「うん。私、あなたのお嫁さんになりたい」
「ああ、誰よりも愛する俺の可愛いお嫁さんにな」
頷いた拍子に乙葉の瞳から涙がこぼれ落ちた。
「柊、私を大切にしてくれてありがとう」
「当たり前だ。乙葉は誰よりもきれいに輝くスピカで、俺の最愛の女なんだから」
「柊……」
言葉を続けられない乙葉に微笑み、柊はこぼれ落ちた乙葉の涙を指先で拭う。
そしてゆっくりと顔を寄せ、たくさんの愛を伝えるように乙葉に優しく口づけた。
すぐに年末の休暇に入り、年が明けると双方の両親に挨拶に行く。
てっきり結婚の話をされると思っていたらしく、どちらの両親も「え、結婚はまだなの?」と拍子抜けしたようだった。
紗理奈からも『どういうこと?』と電話で尋ねられたが、乙葉は「柊が将来を見据えたおつき合いをさせてほしいって両親に」と話すと、『柊くんが? あの柊くんがそんな古風なことを?』と驚いていた。
以前、結婚情報誌に婚姻届が入っているのを見て「コンビニ寄ったついでに、みたいな感じで結婚はしない。お嫁さんをもらうんだから」と言っていた柊だけに、乙葉は柊のその行動は信じられた。
何より、毎日一緒に過ごせるだけで心が穏やかになり、幸せな気持ちでいっぱいになる。
それだけで乙葉は満ち足りていた。
「紗理奈さん、無事に紗彩ちゃんの保育園が見つかったって。予定通り四月から復帰してくれるの」
ある日の夕食でそう話すと、柊も「よかったな」と笑みを浮かべる。
「うん! もう楽しみで仕方ないの。紗理奈さんと一緒に仕事したら、もっともっと成長できる気がする」
「おっ、まだ背が伸びるのかな? 乙葉ちゃんは」
「そう。ぐんぐん伸びて……って、またそういうこと言うんだから」
「はははっ、大きくなれよ」
柊と交わす何気ない会話が幸せで、ありふれた日常が愛おしい。
ずっとずっとこの先も一緒に。
その想いは募るばかりだった。
そして三月二十五日、乙葉の二十七歳の誕生日を迎えた。
その日は月曜日で、仕事終わりに柊がホテルに宿泊しようと計画してくれる。
定時に上がると二人でまずは駒田のいる例のレストランでティナーを食べることにした。
「いらっしゃいませ、森住さま。本日はお誕生日おめでとうございます、乙葉さん」
例のごとくにこやかに出迎えてくれる駒田は、美味しいコース料理をサーブしてくれたが、最後に「私は気が長い方なのですが、それにしてもなかなか……」と苦笑いしていた。
恐らく結婚の報告を待ってくれているのだろうけれど、乙葉としては何も不満はない。
柊は相変わらず優しく頼もしく、どんな時も心の支えでいてくれた。
「乙葉、ホテルに移動しようか」
「うん! どんなところなのか楽しみ」
着いたのは海沿いのラグジュアリーなホテル。
客室からは月に照らされて輝く海と、きれいな星空が見渡せた。
「すてきね、静かでキラキラしてて、夢の世界に来たみたい」
窓からの景色に見とれていると、柊がそっと寄り添って尋ねる。
「乙葉、スピカわかる?」
「えっと、北斗七星をたどるのよね?」
「そう」
乙葉の後ろに立った柊が、後ろから腕を回して乙葉と右手を重ねた。
「あれが北斗七星。見える?」
乙葉と重ねた手で柊が空を差し、乙葉は「うん」と頷く。
「そこからこうやって下に行くと、オレンジ色の明るい星がある。あれがアークトゥルスで、乙葉にとっての俺」
乙葉は思わず頬を赤らめた。
「そのカーブをさらに伸ばしていくと、白く輝くきれいな星がある。あれがスピカ。俺にとっての乙葉だ」
「オレンジ色の柊の隣に、いつも私がいるのね」
「そう」
「でも春にしか見えないのか、ちょっと寂しいな」
そう呟くと、柊が両腕を回して乙葉を抱きしめた。
「乙葉」
呼ばれて振り向くと、優しいキスが落とされる。
「ん……」
柊の温かい胸に背中を預けてうっとりしながらキスを受け止めていると、やがて身体を起こした柊が耳元でささやいた。
「乙葉」
「なあに?」
「俺はどんな時も乙葉のそばにいる。たとえ空に星が見えない日でも」
そう言うと柊は乙葉と重ねた左手を目の高さに持ち上げた。
次の瞬間、乙葉はハッとして目を見開く。
「柊、これ……」
いつの間にか乙葉の左手薬指には、キラリと輝く指輪がはめられていた。
ダイヤモンドの両側に、小さな真珠の粒がなめらかな光を放っている。
言葉もなく見つめていると、柊がそっと乙葉のその手を取り、優しく「乙葉」と名を呼んだ。
「誰よりも繊細で、この真珠のように純真な乙葉。たくさん傷つきながら、それでも一人で自分を奮い立たせてがんばってきた健気な乙葉を、これからは俺が必ず守っていく。乙葉、もう一人でがんばらなくていい。泣きたい時は俺の腕の中で泣いて、寂しい時は俺が抱きしめて温める。どんな乙葉も俺は心から愛している。乙葉、俺と結婚しよう」
乙葉は目に涙を溜めて柊を見つめる。
「柊……、ありがとう。ずっと私を見守って助けてくれて、いつもそばで支えてくれて本当にありがとう。あなたに教えられて、私は自分の心の中の星を見つけることができたの。私を強くさせてくれる、道しるべのような星。それはあなた自身でもあるの。柊、あなたを見失いたくない。ずっとずっとそばにいてほしい」
「もちろんだ。俺と乙葉は二人並んで夫婦星だから」
「うん。私、あなたのお嫁さんになりたい」
「ああ、誰よりも愛する俺の可愛いお嫁さんにな」
頷いた拍子に乙葉の瞳から涙がこぼれ落ちた。
「柊、私を大切にしてくれてありがとう」
「当たり前だ。乙葉は誰よりもきれいに輝くスピカで、俺の最愛の女なんだから」
「柊……」
言葉を続けられない乙葉に微笑み、柊はこぼれ落ちた乙葉の涙を指先で拭う。
そしてゆっくりと顔を寄せ、たくさんの愛を伝えるように乙葉に優しく口づけた。