妹に婚約者を奪われたので、冷酷公爵様のもとで自由に生きます~と思ったら、なぜか溺愛されています~
 ヴィクターが帰った後、私はしばらく窓辺に佇んでいた。

 出窓には母が選んだ花が飾られている。

 この花はエイミーが好きな花であって、私の好みではない。

 その花を眺めながら、私は考えた。

 私は何が好きなのだろう?

 好きな色、好きな花、好きな食べ物。考えてみても答えは出てこない。

 いつだって誰かの好みを優先してきたから。

 エイミーの好きなものを覚え、母が喜ぶものを選び、父が望む振る舞いをしてきた。

 そうやって過ごしているうちに、自分が何を望んでいるのか分からなくなってしまったのだ。

「私、何をしていたのかしら?」

 小さく呟いた声は、静かな部屋に溶けていく。

 しばらく窓の外を眺めていたが、唐突に吹っ切れた。

「……もう、いいわ」

 いつか私自身を認めてくれると思って努力してきたが、もうやめよう。

 誰かに愛してもらうために、自分を犠牲にするのもやめよう。

 これからは、自分のために生きてみたい。そう思った。

「でも、具体的に何をすればいいのかしら?」

 クロスフォード侯爵家の長女として生きてきたが、それ以外の生き方はあるだろうか?

 この家を出て一人で暮らそうか? いや。貴族の世界しか知らない世間知らずの私には無理だろう。

 どうやって生きていけばいいのか、まるで見当がつかない。

 それでも、何も分からなくても今までと同じ生活に戻るつもりはなかった。
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