妹に婚約者を奪われたので、冷酷公爵様のもとで自由に生きます~と思ったら、なぜか溺愛されています~
「……お前はいったい何を言っているのだ?」

 父は理解できないという顔をしていた。母も困惑しているようだ。

 その両親の表情を見て、私は初めて気づいた。

 この人たちは、私が自分の意思を口にするとは思っていなかったのだ。

 私がいつまでも従順でいると、本気で信じていたのだろう。

「申し訳ございません。突然のことで戸惑われるかもしれませんね」

 ナプキンをたたみ、椅子から立ち上がる。

「ですが、これは私が決めたことです。今後のことは、私自身で考えて決めます」

「アリシア!」

 父が声を荒げるが、構うことなく食堂の出入口に向かう。

「失礼いたします。先に休ませていただきますわ」

 食堂を出ると足を止めることなく、自室へ歩を進めていく。

 怖くないと言えば、嘘になる。

 これまで父に逆らったことはなかったが、初めて自分の意見を伝えた。明日になれば、きっと何か言われるだろう。

 それでも――。

「……少しずつでいいのよね」

 私は自分に言い聞かせるように、そう呟いた。

 いきなり何もかも変えることなどできない。

 小さなことから一歩ずつ始めればいい。

 好きなものを見つける。自分の時間を自分のために使う。そして、自分の気持ちを伝えること。

 その一つ一つが今までの私にはできなかったことなのだから。

「明日は本でも読んでみようかしら?」
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