妹に婚約者を奪われたので、冷酷公爵様のもとで自由に生きます~と思ったら、なぜか溺愛されています~
 ヴィクター・アディントンは私の婚約者だ。十五歳の時に彼との婚約が決まり、三年間良い関係を築いてきた。

 つまり、彼をエイミーに譲れということなのだ。

「お姉様、ごめんなさい」

 エイミーが震える声で謝罪する。

 大きな紫色の瞳には涙が浮かび、今にも零れ落ちそうになっていた。

「私、いけないことだと分かっていたの。ヴィクター様はお姉様の婚約者だから。でも、ヴィクター様をお慕いする気持ちをどうしても抑えられなくて……」

 母がエイミーの肩を抱き寄せた。

「まあ、エイミー。そんなに自分を責めなくてもいいのよ。恋心というものは誰にも止められないのですから」

「お母様」

「大丈夫よ。お母様たちがついているわ」

 エイミーの柔らかなピンクの髪を母は優しく撫でる。

 私はその光景を他人事のようにぼんやりと眺めていた。

 エイミーが泣けば、母が慰める。

 エイミーが何か欲しがれば、父が与える。

 それは私が物心がついてから見慣れた光景だった。これがこの家の日常なのだ。

 だが、今回ばかりは違う。

 エイミーが欲しがっているのは、人形でもドレスでも宝石でもない。

 私の婚約者なのだ。
< 2 / 6 >

この作品をシェア

pagetop