妹に婚約者を奪われたので、冷酷公爵様のもとで自由に生きます~と思ったら、なぜか溺愛されています~
「アリシア、遅かったな」

 応接室に入るなり、ヴィクターがそう言ったので、私は思わず足を止めた。

 遅かったですって? 約束をしていないのに?

「お待たせして申し訳ございません。ご用件は何でしょうか? アディントン伯爵令息」

 当然のようにすでに腰を下ろしていたヴィクターに一礼する。

「随分と他人行儀だな。以前のように名前で呼んでくれて構わないよ」

「もう婚約者ではありませんので」

 ヴィクターは一瞬口元を引きつらせた。

「まあ、いい。実は今日訪ねたのは君に頼みたいことがあるからなんだ」

「……何でしょう?」

 大体検討はついているが、そう尋ねる。

「王太子殿下に提出する報告書のことで困っているんだ」

 やはりね。

 ヴィクターが私をわざわざ訪ねる理由は、それくらいだと予想していた。

「資料をまとめる時間がなくてね。今回も手を貸してくれないかな?」

 困ったように微笑むヴィクターだが、私の心は動かなかった。

「君ならすぐにできるだろう?」

 婚約を解消する時に、もう仕事は手伝わないとはっきり伝えたはずだ。

 だが、まるで何もなかったかのように、彼は私に仕事を頼みにきた。

 私は膝の上で両手を重ねて、公爵閣下の言葉を思い出す。
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