妹に婚約者を奪われたので、冷酷公爵様のもとで自由に生きます~と思ったら、なぜか溺愛されています~
 私のために仕立てられたドレスをエイミーが欲しがった時も、楽しみにしていた観劇にエイミーが行きたいと言い出した時も、彼女はいつも同じ顔をしていた。

 そして、両親は必ず同じ言葉を口にする。

――姉なのだから。

「私……お姉様を傷つけるつもりはなかったの」

 エイミーは私の手を両手で包み込んだ。白くて柔らかい手。

「でも、ヴィクター様は私を選んでくださったの。私はどうしたらいいのか分からなくて……」

 妹は私の手を握りながら、何を考えているのだろう?

 姉から婚約者を奪ってしまった罪悪感を感じている?

 それとも姉なら今回も許してくれるだろうと思っているのだろうか?

 分からない。

 今までだって、エイミーが何を考えているのか分からなかった。

「……ヴィクター様はこちらにいらっしゃるのでしょうか?」

 私が尋ねると、父は意外そうな顔で頷く。

「今日の午後、こちらに来るそうだ。お前にも直接話がしたいと言っていた」

「そうですか」

 エイミーの手をそっと外すと、私は立ち上がる。

「お姉様?」

「少し席を外します」

 両親の返事を待たずに私は応接室を後にした。

 廊下に出た途端、めまいに襲われた。だが、壁に手をつき、深く息を吸う。

 泣きたい衝動に駆られたが、ここで泣くわけにはいかない。

 泣けば、母はこう言うだろう。

「エイミーを困らせないで」と。

 父は「いつまで落ち込んでいる」と呆れるだけだろう。

 だから、泣かない。私はずっとそうやって生きてきたのだ。

 だが――。

「……もう、疲れたわ」

 誰にも聞こえない声で、私は呟いた。

 その言葉を口にした途端、胸の奥に押し込めていた何かが、ほんの少しだけ崩れた気がした。
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