トラスト・ファンド・ベイビー 〜信託金目当てだったはずの金髪碧眼な資産家俳優に、私の絵ごと狙われています〜
⑤ニューメキシコ州、サンタフェの夏 (※リアム視点・回想)
高校二年生の夏。
リアム・ギルフォードはハンプトン行きを蹴って、親友であるアレックスを訪ねることにした。
去年の秋まで同じ高校に通っていた彼女は、家庭の事情で今はニューメキシコのサンタフェに居る。
プライベートジェットで降り立ったサンタフェの日差しは、まるでサプライズ嫌いなアレックスに似て、帰れと言わんばかりにリアムの肌を刺した。
そんなロングアイランドとは異なる空気を楽しみながらアレックスの家に行くと、彼女の家のカーポートに見知らぬアジア人が居た。
白い肌に、夜空よりも深い黒髪。
線が細く全てのパーツは小ぶりだが、しかし存在感があるバランスの整った顔立ちだ。
そんな彼女はキャンバスに向かって柔らかな笑みを浮かべ、華奢な腕を熱心に動かしていた。
――何か描いているのか?
『Hi. Is Alex Here?』
近づいて問えば、描くことに夢中だった彼女がやっとリアムに気付いた様子で視線を上げた。
そしてビクリと肩を揺らしたかと思うと、驚いた表情で固まる。
先ほどまでの笑みが霧散して顔が緊張一色に染まっており、まるで危険を察知した小動物のようだった。
それでも彼女は懸命に言葉を探しているようで、口を開閉したあとに『……No. She's in Japan right now』とぎこちないイントネーションで返事をした。
――なんだ、こっちの人間じゃないのか。
そう合点したリアムは、今度は日本語で尋ねる。
「アレックスは日本に居るのか?」
すると彼女は再び言葉を詰まらせた。
どちらの言語で返事をすべきか迷っているのだろう。
緊張感漂う反応が新鮮で、そして貴重な機会だと感じたリアムは、空いていた一席に勝手に腰をかけた。
興味はアレックスの不在よりも既に目の前の彼女に移っていて、宥めるつもりで笑みを向ける。
「英語で喋らなくていいよ。僕の日本語がどこまで通用するか試したい」
「……分かった」
「君の名前は?僕はリアム・ギルフォードだ」
「リアム?……私は新島葵。アオイがファーストネームだよ」
「アオイ?呼びにくいな。アビーでいいだろ」
「う、うん」
「じゃあ、アビー。少し雑談に付き合ってくれ」
「私でよければ……」
リアム・ギルフォードはハンプトン行きを蹴って、親友であるアレックスを訪ねることにした。
去年の秋まで同じ高校に通っていた彼女は、家庭の事情で今はニューメキシコのサンタフェに居る。
プライベートジェットで降り立ったサンタフェの日差しは、まるでサプライズ嫌いなアレックスに似て、帰れと言わんばかりにリアムの肌を刺した。
そんなロングアイランドとは異なる空気を楽しみながらアレックスの家に行くと、彼女の家のカーポートに見知らぬアジア人が居た。
白い肌に、夜空よりも深い黒髪。
線が細く全てのパーツは小ぶりだが、しかし存在感があるバランスの整った顔立ちだ。
そんな彼女はキャンバスに向かって柔らかな笑みを浮かべ、華奢な腕を熱心に動かしていた。
――何か描いているのか?
『Hi. Is Alex Here?』
近づいて問えば、描くことに夢中だった彼女がやっとリアムに気付いた様子で視線を上げた。
そしてビクリと肩を揺らしたかと思うと、驚いた表情で固まる。
先ほどまでの笑みが霧散して顔が緊張一色に染まっており、まるで危険を察知した小動物のようだった。
それでも彼女は懸命に言葉を探しているようで、口を開閉したあとに『……No. She's in Japan right now』とぎこちないイントネーションで返事をした。
――なんだ、こっちの人間じゃないのか。
そう合点したリアムは、今度は日本語で尋ねる。
「アレックスは日本に居るのか?」
すると彼女は再び言葉を詰まらせた。
どちらの言語で返事をすべきか迷っているのだろう。
緊張感漂う反応が新鮮で、そして貴重な機会だと感じたリアムは、空いていた一席に勝手に腰をかけた。
興味はアレックスの不在よりも既に目の前の彼女に移っていて、宥めるつもりで笑みを向ける。
「英語で喋らなくていいよ。僕の日本語がどこまで通用するか試したい」
「……分かった」
「君の名前は?僕はリアム・ギルフォードだ」
「リアム?……私は新島葵。アオイがファーストネームだよ」
「アオイ?呼びにくいな。アビーでいいだろ」
「う、うん」
「じゃあ、アビー。少し雑談に付き合ってくれ」
「私でよければ……」