トラスト・ファンド・ベイビー 〜信託金目当てだったはずの金髪碧眼な資産家俳優に、私の絵ごと狙われています〜
しかし了承は得られたものの、日本語でいろいろ話しかけてもアビーの反応はイマイチ悪かった。
そこで話題を変え、彼女が描いていたキャンバスに目を向ける。

「それ、見てもいい?」

「あ……うん。これね、似顔絵を描いてたの……描くのが好きだから。リズさんにプレゼントしようと思って」

リプロカル・プログラムという相互援助制度を使ってホームステイ中だという彼女は、ホストファミリーであるアレックスの母――リズにサプライズをするらしい。

「お世話になってるから」と頬を染める横顔を一瞥したあと、リアムは立ち上がって周り込み、それまで触れてこなかったキャンバスを覗き込んだ。

するとそこには色鮮やかな絵の具で描かれた、リズの朗らかな笑顔があった。

「……へぇ。上手いじゃないか」
「本当に!?」

突如、食い入るようにアビーが反応した。

「急になんだよ」
「あ、ごめん。私、将来は絵を描く仕事がしたくて……だから嬉しくて、つい」

彼女のトリガーのようなものを偶然引き当てたリアムは、今度は腰を据えてその絵を見ることにした。

「……ふーん。なら、もっとちゃんと見せて」
「えっ……?」

一目見ていい絵だとは思ったが、目標があるらしい彼女の発言にコレクターの血が騒いだのだ。

リアムは美術品が好きだ。
それは古典から現代アートとジャンルを問わない。

それがたとえ無名の作家でもセンスがあると思えば、手に入れる価値がある。

そんなリアムの瞳にアビーの絵は刺さった。

「なれるんじゃないか。僕にはシンピガンがあるから、保証してやる」

いつもポジティブで気さくなリズの性格がそのまま表れていた絵に確信を込めて言うと、アビーはますます白い肌を真っ赤に染めた。

「ありがとう……嬉しい」

――でも、こういう奴はうちの学校じゃ埋もれそうだな。

才能もセンスも、結局は見せ方次第だ。

それを持ち合わせていたとしても、主張する気概がなければチャンスは他人の手に攫われてゆく。

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