トラスト・ファンド・ベイビー 〜信託金目当てだったはずの金髪碧眼な資産家俳優に、私の絵ごと狙われています〜
アビーの初々しい反応に、リアムはどこか冷めた感情を抱きながら、しかし絵を描くセンスには感心して、ふっと笑う。

するとアビーが思い出したように言った。

「あ、さっきの……シンピガンじゃなくて審美眼、だね」
「間違ってたか」
「うん。でも凄いよ。ほとんど綺麗な日本語だもん。きっとたくさん努力したんでしょ?」

「まぁね。日本語は極悪だったよ」
「極悪……?」

「アメリカじゃ日本語の学習はカテゴリ5。最高難易度だ。僕はそこそこ喋れるが、書くのは苦手。漢字にカタカナ、ひらがな……多すぎる」

言えばアビーが眉尻を下げて笑った。

「言われてみれば……私も頑張らないとな」

話し始めた時よりも自然な笑みがそこにはあった。
そして瞳の奥には、リアムでなくどこか遠くに想いを馳せるような、決意を秘めた色がチラつく。

「アルファベットはたった二十六文字だからな」

「そうだね。ありがとう」

「……なぜ礼を?」
「励ましてくれたのかと思って」

日本語の悪どさに対する嫌味を込めていたが、どうやら彼女は違う感情を受け取ったらしい。

「これが日本人特有の余白を読むってやつか……難しいな」

そんなことを呟いていれば玄関の扉が開き、レモネードを持ったリズが現れた。

慌ててアビーは作品を隠し、違うキャンバスに差し替えていたが、そこまで慌てずともリズの関心はリアムに集中していた。

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