トラスト・ファンド・ベイビー 〜信託金目当てだったはずの金髪碧眼な資産家俳優に、私の絵ごと狙われています〜

⑦静寂と躍動のデザインフェス

リアムを拒絶してから彼がパート帰りの葵の前に現れることはなくなった。

視界を塞ぐ薔薇の花は消え、ドラッグストアの裏手口を開ければいつもの帰り道が視界に映る。

そうして再び平穏を取り戻した葵であったが、しかし一方でリアムの言葉が引っかかっていた。

『他人の力を借りて声を上げることの何がいけないんだ?』

――あれは多分、間違ってはない。

日々新しいものが台頭して常に新鮮なコンテンツが生まれては消えてゆく。

以前よりもずっと消費の回転が速くなった世の中で、ただ生み出すだけでは水面に届かず沈んでいってしまう。

リアムの妻という立場はともかく、言いたいことは十分伝わっている。

伝わっているからこそ、あの日から二週間が経つというのに、リアムの言葉が今も脳裏に染みついて離れなかった。

「美容室……予約しなきゃな」

銀座のビルに連れていかれた時は、このままで良いと言ったが、デザインフェスに参加するにあたり、もともと切るつもりはあったのだ。

今やヘアカットはこのデザインフェスに合わせた年に一回。

直ぐに予約の出来る店舗で、カットだけを頼む。

そこではいつも通り、毛先を整えるだけのつもりだった。

しかし訪れた美容室で、葵は「今回は、短くしてください」と告げていた。

触発されたからではないと自分に言い聞かせていたが、実際は突き動かされるものがあった気がする。

リアムの意思で切らされるのではなく、自分の意思で切ったという表現をしたかったのかもしれない。

同じ答えなのに、過程が違えば意味が変わるのだと。

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