トラスト・ファンド・ベイビー 〜信託金目当てだったはずの金髪碧眼な資産家俳優に、私の絵ごと狙われています〜
そんな風にいつもと違うことを一つだけ取り入れた葵は、デザインフェスに参加する前日、搬入する予定のキャリーケースに白いワンピースをいつも通り詰め込んだ。

毎年使わないのに、いつか着る勇気が出た時にと持っていっているものだ。

サンタフェで観たライブペイントのパフォーマンスに似た曲を選び、いつも即興で描く時に着用するのは黒のパーカーにパンツ。

これが定番になっているが、本当は真っ白なワンピースを絵具で汚してみたかった。

気負いせず着たいものを着ればいいと笑われそうだが、葵にとっては大きなハードルなのだ。

黒い服を着ていれば絵を見てもらえる。白いワンピースは自分ごと見てくれと言ってるような気分になって恥ずかしさがあった。

本当は見て欲しい。

でも、やっぱり絵だけでいい。

そんな押し寄せては引いて波のように揺れる感情。

二日間開催されるデザインフェスの初日。

一日目は、やはりいつも通り黒いパーカーとパンツ姿で絵を描き始めた。

スマートフォンに、小さなポータブルスピーカーをリンクして周りに邪魔にならない程度の音量で曲を流し描き始める。

暫くすると、イベントに参加する何人かが葵のパフォーマンスの前で時折立ち止まり、数分眺めて名刺を取り去ってゆく。

八メートル強という巨大な壁面パネルは毎年の大出費だが、これは自分に向けた誕生日とクリスマスプレゼントのようなものだった。

一応コーナーの一角に、申し訳程度のポストカードと『リクエスト承ります』と書いたパネルを置いているが、今のところ特に声はかからない。

何年もやっているが、葵の纏う雰囲気のせいもあってか、リクエストが入るのは毎回ひとりか二人程度。

そのため良くも悪くも葵は今年も黙々と抽象画を描いていた。

しかし昼の休憩を挟んだあと、不意に声を掛けられた。

「リクエスト、いいかな?」

聞き覚えのある声に振り返るとリアムが居た。

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