トラスト・ファンド・ベイビー 〜信託金目当てだったはずの金髪碧眼な資産家俳優に、私の絵ごと狙われています〜
彼は通路を歩く人々の視線を集めている。

日本にも轟く有名俳優とまではいかないが、映画好きの人間が見ればすぐに本人だと分かるはず。

だというのに彼はまったく正体を隠すことなく、寧ろ自分の煌びやかな見た目を切り売りするかの如く、今日はミルクホワイトの仕立ての良いスーツを着て現れたのだ。

「関わらないでって言ったよね……?」

ハケを持つ手を止めて葵は言った。

しかしリアムは一切悪びれず堂々と近づいてくる。

「この会場の出入りは誰だって自由だろ?僕は一般客だ」

そして”リクエスト承ります”というパネルを拾い上げて、その文字を葵に見せる。

「さぁ、僕を描いてくれ。それともここの出店者は客を選ぶのか?」

双眸を細めて言われ葵は顎を引き視線を逸らしたものの、断るなんて出来るわけがなかった。

目立つリアムの存在に何人もの視線が注がれている。

葵は渋々と頷き、それからコーナーの隅に置いていた小さな椅子までつかつか歩いて椅子を掴む。

そして壁面の中央にガタと置いた。

「顔、時々見せてもらわないと描けないから椅子使って。ネットで写真探して描けって言うなら帰って」

するとリアムはまだ白い部分が大半を占める壁の中央に佇む椅子を見て笑った。

「構わないよ。まるで玉座だな」

晒しものにするつもりはなかったが、諦めるだろうと提示した内容は一切の文句なく受け入れられた。

葵は椅子に脚を組んで座るリアムを見遣り戸惑う。

――なんで、ここまでこだわるの?

しかしリアムが着座したことによって葵のパネルの前で足を止める人々が先ほどよりも増えている。

葵はリアムの瞳を表現すべく、コバルトブルーの水彩絵の具を手に取った。

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