トラスト・ファンド・ベイビー 〜信託金目当てだったはずの金髪碧眼な資産家俳優に、私の絵ごと狙われています〜
――――それから何時間が経過しただろう。

まるで王様のようなリアムによってかき乱される心で葵は描き続けた。

沢山の人々が集まって、その人たちにリアムは手を振っている。

彼らがリアムを観ているのか、絵を観ているのかは分からない。

きっと前者の方が多かったのかもしれないが、しかしそんなことはどうでも良いぐらい、葵は夢中になって描いた。

赤く焼けた空。
碧い瞳の支配者が色鮮やかなライオンを従え玉座に君臨する姿を。

空には彷徨う青い鳥が一羽。
彼に焦がれて、自分の渡り路を見失っている鳥は葵自身である。

しかしこれはまだ完成していない。
全容は現れたがまだまだ塗るところは残っている。

一日目の撤収時間を迎えた頃、葵は手の汚れを拭ってからペットボトルを差し出した。

「……お疲れ様。明日は完成すると思う。もうモデルは必要ないよ」

「それはお役御免ってことか?」

「リクエストはちゃんと、完成させるから。観に来たいなら好きにして」

「ふーん……」

リアムは受け取りながら葵の顔を見ると口角を持ち上げた。

「その髪型、似合ってる」

「ありがとう……」

視線を彷徨わせながら答えると、リアムは眉根を寄せて言った。

「――アビー。君は実績を伴わない結果は恥ずかしいと言ったが、僕はそんな風に思ってない」

「リアム……その話は、……」

葵は辟易として眺め見たが、言葉を阻むようにリアムは続ける。

「君には中身がある。実力はあるんだ。僕は君の魅力をもっと広く知って欲しいだけだ。ほら、このブースだって名刺やカードだけじゃなく、もっとPOPや流入導線を作ったパネルも置いた方がいい。それに……サンタフェではもっと楽しそうに描いていただろ?」

訴えかけるリアムに対し、葵はまた胸の奥をつつかれた気分になって言葉を飲み込んだ。

「君が舞っていた姿は綺麗だった。どうかもう一度、あの時の君を見せて欲しい」

そう切実に言われ、キャリーケースの中のワンピースの存在を思い出す。

サンタフェで着ていたワンピースは白。
情熱を纏い絵具に塗れたあの日々と同じ色の服だった。
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