トラスト・ファンド・ベイビー 〜信託金目当てだったはずの金髪碧眼な資産家俳優に、私の絵ごと狙われています〜
――――デザインフェス、二日目。

葵は純白のワンピースドレスに袖を通し、絵の完成に挑んだ。

巨大な壁面には描きかけのリアムがこちらを見ている。

葵は当初、様々なニュアンスの青でリアムの肖像を描くつもりだったが止めることにした。

――彼を見て思い出した感情を色に乗せよう。

サンタフェの夏。
アートマーケット。
プロポーズの薔薇。

ライブペイントで殻を破ったあの日のこと。

それだけじゃない。

キスをしたこと。
いまだに約束を果たせない後ろめたさ。

自分自身に対する無力感。

そして……ーー再び会えた感動。

素直な気持ちをそのまま壁面にぶつけた。
上手く描こうとする思考を止めて、内なる欲望のままに。

ーー楽しい。

年を追うごとに計算や雑念が混じっていた絵が、どんどん葵が本当に欲しい色に塗り変わってゆく。

「すみません」

不意に人の声がして現実に振り返ると、絵を観てくれていた女性がポストカードのセットを指差した。

「ひとつ買っていいですか?」

「もちろんです!ありがとうございます…っ」

二日目にして初めてカードが売れた。

ノベルティのシールをつけて渡すと、女性は「今日の格好、素敵ですね」と褒めてくれた。

そして一人が購入すると近くに居た人達がぱらぱらとカードを買っていったのだ。

結局、購入されたセット数はいつもと殆ど変わらなかったが、しかし今日の葵は来てくれた人の目を見て、いつもより雑談することが出来た。

微々たるものかもしれないが、葵にとっては大きな成果である。

「アビー」

フェスの最終時間が迫る前、リアムが現れた。

昨日とニュアンスの違うオフホワイトのスーツを着ている。

「見てたよ。美しい姿だった」

リアムは大きな口を緩慢と持ち上げて双眸を細めた。

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