トラスト・ファンド・ベイビー 〜信託金目当てだったはずの金髪碧眼な資産家俳優に、私の絵ごと狙われています〜

⑩君に愛を乞う

その場に残った葵はシャンパングラスを持ったまま壁際で考える。

人が来ないこの場所でぼんやりと佇み、これまでのリアムの行動を脳裏で逆再生するように思い出す。


実在したと、願いが叶って良かったと言われた。

デザインフェスではキャンバスになるつもりだとリアムが抱きしめてきて、しかも今回だけでなく、以前から彼は葵の活動を見守っていたらしい……。

葵の中にリアムへの恋愛感情がないという疑惑が上がれば否定するし、再開した時には薔薇の花束を差し出して結婚しようと言った。

リアムは自分と結婚すれば葵にメリットがあると一貫して提示してきたが、しかし同時に葵に価値があると何度も告げていた。


――まさか、そんな。待っていたなんて、言うわけないよね。


自分に都合のいい結論に辿り着いたが、葵は失笑するように口許を緩めた。

彼に本気で愛されることなんて、独善的な解釈にもほどがあると。

『君、リアムの恋人だっけ?』

しばらくして近くで男性の声が響き見上げると、リアムに似た顔が視界に映る。

いや、正確にはリアムとリアムの母や祖父に似た顔がそこにはあったのだ。

ギルフォード家の人間なのだろうか。
顔の系統が共通しており、しかしパッと見た印象から数秒経って落ち着いて眺め見れば、リアムとは明らかに異なるとも感じ始める。

目の前の彼が纏うのは気怠げな雰囲気で、目元は薄っすらと隈があり、長い金髪を無造作に後ろでまとめていた。

『英語、話せるってことで良いのかな?俺はあいつの従弟のアランだ。一人なら少し話そうよ』

碧い瞳が柔らかく孤を描いたが、それは葵を不安にさせる笑みだった。

リアムが無視しろといった人物だろうか。

葵が警戒して黙り込んでいるとアランと名乗る男が歪に笑う。

『だんまりか。なぁ、リアムのどこが良いんだ?あいつは自分のことしか興味がない。やりたいことだけやって俳優の真似事までしてさ。見たところ君は純情そうだし、苦労してるんじゃ?』

勝手に葵の隣に立ちアランは壁に背をつけながら言った。

『俺なんてどう?彼奴は君の手に余るだろ』

シャンパングラスを掲げると小首を傾げ片目を瞑る。

葵は眉根を寄せて顔を逸らしたあとその場を立ち去ろうと歩き出したが、アランの言葉が立ち止まらせた。

『日本人は一歩引いて夫を立ててくれるんだろ?リアムは人を操作するのが好きな傲慢野郎だ。せいぜい捨てられないよう尽くせよ、レディ』

葵の憤りをダメ押しするような言葉だった。
リアムを分かっていない。
それに文化を一括りにするなんて、時代錯誤にも程がある。

『全部リアムが羨ましいから言ってるんでしょう。あなたの眼には彼しか映ってないの?熱烈過ぎじゃないですか』

葵はシャンパンを片手に固まるアランに言い募った。

『リアムは気骨があるんです。やりたいようにやって何が悪いんですか。少なくとも私は、彼の傲慢さも含めて憧れます。余計な心配をありがとう』

胸の奥から込み上げてきた思いを吐き出せば心が澄み切って軽くなる。

ーーどうだ。一歩引くどころか詰め寄れるんだから。
< 33 / 34 >

この作品をシェア

pagetop