トラスト・ファンド・ベイビー 〜信託金目当てだったはずの金髪碧眼な資産家俳優に、私の絵ごと狙われています〜
『アビー!』
そこへ丁度リアムが帰ってきた。
剣呑な面持ちをアランに向けて心底鬱陶しそうにため息を溢すと二人の間に立ちはだかるように割入った。
『彼女に絡むな。相手にされないからって僕の恋人にまで関わろうとするのは不快だ』
『お前が何でも横取りしていくからだろ……彼女はお前に忠実そうだ。良かったな』
瞬間、アランは持っていたグラスをシャンパンをリアムの顔に浴びせた。
リアムはその行為に動じることなく冷ややかに見遣る。
『気が済んだなら帰れ。ここに居てもお前が落札出来る美術品はないだろ?』
『くそ……』
アランは悪態をつきながら身を翻し去ってゆく。
『悪かった。アビー、嫌な思いをさせたんじゃないか?』
リアムは濡れた姿のまま尋ねる。
真っ先に自分を心配してくれるのかと思うと、無意識に眉尻が下がり苦い笑みが溢れる。
『大丈夫。失礼な事は言われたけど、ちゃんと言い返せたから。それよりリアム、早く着替えなきゃ。大丈夫?』
すると突然広い腕に包み込まれ抱き寄せられた。
『君は……本当に……』
『ど、どうしたの……?』
葵は何がどうしてこんな事をされているのかと瞳を瞬いた。
『ごめん。君の着替えも用意するから、このままで』
リアムは葵の肩口に顔を埋めながら弱々しく呟いた。
こんな姿は見た事がない。
『最後の、君の言葉が聞こえたんだ……君はどうしても、僕の思い通りにならないな。ずっと待ってるのに』
一体なんのことだろう。
葵は美術品に囲まれた一室でリアムに抱きしめられながら視線を彷徨わせる。
『僕から乞わないといけないのか……』
リアムは不満と諦めを混ぜた声で言った。
『……リアム?ちゃんと教えてもらえないと分からないよ』
胸板の厚い身体を抱き返していいものか迷う指先を丸め、葵は尋ねる。
するとリアムは訥々と零した。
『……君と結婚したいとちゃんと言った』
『う、うん……』
『信託金のためだけの結婚のつもりはなかった』
『え……』
『君が勝手に解釈したんだ。でもそんなことは大したことじゃない……君は絶対僕に気があるから大丈夫だと思ってたから……』
言ってリアムの腕が一層強く葵の身体を抱きしめる。
『なのに、君はちっとも僕に愛してると言わない。憧れなんかじゃなく、僕を愛してると言ってくれ』
その言葉に唇が震える。
『それって……リアムは、私が好きだってことでいいの……?』
『……あぁ、そうだ』
そして躊躇いがちにリアムは顔を上げて葵の瞳を覗き込む。
『……君が欲しい。僕は葵に愛されたい。だから結婚して欲しいんだ』
拗ねたような。怒っているような。
リアムの熱を帯びた視線は葵の胸を焦がす。
『……サンタフェで約束したこと覚えてる?』
『あぁ。君は僕に、夢を叶えて会いに行くと言った』
そう。待っててねと言ったのは葵だった。
自力でのし上がってみせるから。なんて豪語した。
『ごめんね。会いに行けなくて。挫折して、怖くなって……描くのは好きなのに、夢に溺れそうだった……だからリアムが来てくれて本当は嬉しかった』
もう忘れらていると考えていた思い出は、ちゃんと二人のものだった。
『君はダイヤモンドだからな。眠ってる場所を知っているのに、これ以上の放置は損失だ』
『……そんなセリフ、笑わず聞けるのはリアムぐらいだよ』
葵は喜色を孕んだ吐息を零し微笑む。
『私、心に閉まったつもりだったのに、全然ダメだった……リアムに憧れてるし、それ以上にちゃんと愛してる』
夢と同じように、捨てる事が出来ずに心の奥深くに閉じ込めていた。
勇気を出して契約結婚受けたつもりだったけれど、もっと欲しがって良かったのだ。
葵はリアムの腕の中でゆっくりと双眸を伏せ静かに告げる。
「こんな私で良かったら、愛してください」
すると答えの代わりに、耳元に柔らかなキスが落ちてきた。
END
そこへ丁度リアムが帰ってきた。
剣呑な面持ちをアランに向けて心底鬱陶しそうにため息を溢すと二人の間に立ちはだかるように割入った。
『彼女に絡むな。相手にされないからって僕の恋人にまで関わろうとするのは不快だ』
『お前が何でも横取りしていくからだろ……彼女はお前に忠実そうだ。良かったな』
瞬間、アランは持っていたグラスをシャンパンをリアムの顔に浴びせた。
リアムはその行為に動じることなく冷ややかに見遣る。
『気が済んだなら帰れ。ここに居てもお前が落札出来る美術品はないだろ?』
『くそ……』
アランは悪態をつきながら身を翻し去ってゆく。
『悪かった。アビー、嫌な思いをさせたんじゃないか?』
リアムは濡れた姿のまま尋ねる。
真っ先に自分を心配してくれるのかと思うと、無意識に眉尻が下がり苦い笑みが溢れる。
『大丈夫。失礼な事は言われたけど、ちゃんと言い返せたから。それよりリアム、早く着替えなきゃ。大丈夫?』
すると突然広い腕に包み込まれ抱き寄せられた。
『君は……本当に……』
『ど、どうしたの……?』
葵は何がどうしてこんな事をされているのかと瞳を瞬いた。
『ごめん。君の着替えも用意するから、このままで』
リアムは葵の肩口に顔を埋めながら弱々しく呟いた。
こんな姿は見た事がない。
『最後の、君の言葉が聞こえたんだ……君はどうしても、僕の思い通りにならないな。ずっと待ってるのに』
一体なんのことだろう。
葵は美術品に囲まれた一室でリアムに抱きしめられながら視線を彷徨わせる。
『僕から乞わないといけないのか……』
リアムは不満と諦めを混ぜた声で言った。
『……リアム?ちゃんと教えてもらえないと分からないよ』
胸板の厚い身体を抱き返していいものか迷う指先を丸め、葵は尋ねる。
するとリアムは訥々と零した。
『……君と結婚したいとちゃんと言った』
『う、うん……』
『信託金のためだけの結婚のつもりはなかった』
『え……』
『君が勝手に解釈したんだ。でもそんなことは大したことじゃない……君は絶対僕に気があるから大丈夫だと思ってたから……』
言ってリアムの腕が一層強く葵の身体を抱きしめる。
『なのに、君はちっとも僕に愛してると言わない。憧れなんかじゃなく、僕を愛してると言ってくれ』
その言葉に唇が震える。
『それって……リアムは、私が好きだってことでいいの……?』
『……あぁ、そうだ』
そして躊躇いがちにリアムは顔を上げて葵の瞳を覗き込む。
『……君が欲しい。僕は葵に愛されたい。だから結婚して欲しいんだ』
拗ねたような。怒っているような。
リアムの熱を帯びた視線は葵の胸を焦がす。
『……サンタフェで約束したこと覚えてる?』
『あぁ。君は僕に、夢を叶えて会いに行くと言った』
そう。待っててねと言ったのは葵だった。
自力でのし上がってみせるから。なんて豪語した。
『ごめんね。会いに行けなくて。挫折して、怖くなって……描くのは好きなのに、夢に溺れそうだった……だからリアムが来てくれて本当は嬉しかった』
もう忘れらていると考えていた思い出は、ちゃんと二人のものだった。
『君はダイヤモンドだからな。眠ってる場所を知っているのに、これ以上の放置は損失だ』
『……そんなセリフ、笑わず聞けるのはリアムぐらいだよ』
葵は喜色を孕んだ吐息を零し微笑む。
『私、心に閉まったつもりだったのに、全然ダメだった……リアムに憧れてるし、それ以上にちゃんと愛してる』
夢と同じように、捨てる事が出来ずに心の奥深くに閉じ込めていた。
勇気を出して契約結婚受けたつもりだったけれど、もっと欲しがって良かったのだ。
葵はリアムの腕の中でゆっくりと双眸を伏せ静かに告げる。
「こんな私で良かったら、愛してください」
すると答えの代わりに、耳元に柔らかなキスが落ちてきた。
END


