トラスト・ファンド・ベイビー 〜信託金目当てだったはずの金髪碧眼な資産家俳優に、私の絵ごと狙われています〜
「――えっと……ごめんなさい。リアムとは結婚出来ない」
葵ははっきり断ることにした。
実はリアムとは、一度だけキスをしたことがある。
向こうの本心はともかく、葵はリアムを好きになっていたと思う。
そして葵の夢の延長線上でリアムと約束していることもあった。
再会して何も感じない相手ではないことは確かだが、しかしこの傲慢な求婚はおそらく葵を都合のいい相手と認識してのことだろう。
「……どうして?」
まるで予想していなかったと言わんばかりの面食らった表情で逡巡したリアムが尋ねた。
僅かに刮目した瞳を柔和に細めて笑みを作っている。
「いや、だって私達……ほぼ知らない人だし?」
「君の夢を叶えると言ってるのに?」
「それは……」
それでは意味がないと、一番分かっているのはリアムだと信じていた葵は言葉を詰まらせた。
変わらないものなどないのだろうが、葵にとって一生の思い出ともいえる夏にヒビが入った気がしたのだ。
「じゃあリアムは契約妻が欲しいってこと?」
リアムとは珍しい出会い方をしており、普通なら話すこともなかっただろう。
奇妙な出会いがきっかけで一緒に居た夏に思い出は詰まっているが、御しやすい女を求めてわざわざ日本まで来たというのなら、そんなのは御免だ。
「そうじゃない。援助したいと言ってるんだ。アビーにとって僕は好条件だろ」
「その感覚はごめん。分からないな」
葵は席を立った。
――私は、世界に通用するアーティストになる。
笑われそうなぐらい漠然とした夢だが、葵なりに懸命に追いかけていた。
これは唯一、葵が大切に抱きしめているもので、容易く餌にされるようなものではない。
「私はリアムに釣り合わないし、それに自分のことは自分で考えるから、援助なんて必要ないよ」
リアムに背を向けてエントランスに向かって歩き出す。
ホテルに入った時は縮こまっていた身体に、今は何故か緊張感がなかった。
「アビー、納得出来ない」
リアムは言ったが、振り返ることはしなかった。
「知らないよ、そんなこと」
もともと世界の違う相手。
十一年ぶりに再会した彼と再び世界が交差するなんて、きっと無理だ。
葵ははっきり断ることにした。
実はリアムとは、一度だけキスをしたことがある。
向こうの本心はともかく、葵はリアムを好きになっていたと思う。
そして葵の夢の延長線上でリアムと約束していることもあった。
再会して何も感じない相手ではないことは確かだが、しかしこの傲慢な求婚はおそらく葵を都合のいい相手と認識してのことだろう。
「……どうして?」
まるで予想していなかったと言わんばかりの面食らった表情で逡巡したリアムが尋ねた。
僅かに刮目した瞳を柔和に細めて笑みを作っている。
「いや、だって私達……ほぼ知らない人だし?」
「君の夢を叶えると言ってるのに?」
「それは……」
それでは意味がないと、一番分かっているのはリアムだと信じていた葵は言葉を詰まらせた。
変わらないものなどないのだろうが、葵にとって一生の思い出ともいえる夏にヒビが入った気がしたのだ。
「じゃあリアムは契約妻が欲しいってこと?」
リアムとは珍しい出会い方をしており、普通なら話すこともなかっただろう。
奇妙な出会いがきっかけで一緒に居た夏に思い出は詰まっているが、御しやすい女を求めてわざわざ日本まで来たというのなら、そんなのは御免だ。
「そうじゃない。援助したいと言ってるんだ。アビーにとって僕は好条件だろ」
「その感覚はごめん。分からないな」
葵は席を立った。
――私は、世界に通用するアーティストになる。
笑われそうなぐらい漠然とした夢だが、葵なりに懸命に追いかけていた。
これは唯一、葵が大切に抱きしめているもので、容易く餌にされるようなものではない。
「私はリアムに釣り合わないし、それに自分のことは自分で考えるから、援助なんて必要ないよ」
リアムに背を向けてエントランスに向かって歩き出す。
ホテルに入った時は縮こまっていた身体に、今は何故か緊張感がなかった。
「アビー、納得出来ない」
リアムは言ったが、振り返ることはしなかった。
「知らないよ、そんなこと」
もともと世界の違う相手。
十一年ぶりに再会した彼と再び世界が交差するなんて、きっと無理だ。