トラスト・ファンド・ベイビー 〜信託金目当てだったはずの金髪碧眼な資産家俳優に、私の絵ごと狙われています〜
リアムはパーティー好きで、俳優業の関係もあってゴシップのネタにもされやすい。

こんな場所で油を売られてはある意味で葵の私生活に影響が出そうで顔を顰めた。

「僕と結婚すれば何もかも上手くいく。何がそんなに不満なんだ?」

「上手くいくのはリアムの思惑の範囲内で、でしょ。そもそも恋愛感情のない相手とよく結婚しようと思うね。私は嫌だ」

いくら必要に迫られているからといって、リアムの考えていることは自分には受け止めきれない。

するとリアムが立ち止まって眉根を寄せた。

「君は僕に恋愛感情がないのか?」

まるで葵がリアムをまだ好きだと確信している前提が覆ったかのような台詞である。

――ないわけじゃ、ない……けど……。

何もかも掌の上で転がそうとする物言いに腹が立ち、けれども振り返った先に捉えた碧い瞳が射抜くように真っすぐと見つめてきたので、げんなりと言った。

「……あると思ってたんだ」

「帰国する前にキスしただろう、僕に」
「なっ……」

まるで証拠を突き出して裁判にでもかける勢いでリアムは真面目な顔をして言う。

「あれはリアムが先にしてきたんでしょ」
「あぁ。だが応えてきたのは恋愛感情があるからだろ」

今度は不適な笑みを浮かべ小首を傾げる始末だ。
「だからそれ何年前の話なの……」

葵はほじくり返された記憶に顔が熱くなるのを感じながら小さく呟いた。

そんな葵の心情などリアムは気にも留めず、歩み寄ると徐に手を取って、これまた手慣れた所作で甲へと口付けてくる。

「It's the consistency principle.一度認知した感情を覆すのは脳が嫌がるらしいよ。それに僕らは会っていないぶん、思い出も美化されて再会の昂りも大きいはずだ。つまり今の君が僕に好意を感じる可能性は高い」

葵はそっと手を払って眇めた視線を向けた。

「……ロジカルに言ってるけどブーメランだからね?」

「ん?」

「美化されてるって言ったでしょう?期待して来たなら、現実見て目が覚める頃じゃないの?このとおり私は、あれだけ大口叩いたくせに泣かず飛ばずの捻くれアーティストなんで」

美化という点においてはリアムの言う通りで、事実、葵自身もサンタフェの思い出を美化している。

それはリアムとの出会いだけでなく、ホームステイという思い切った行動を選べた自分の度胸を美化してしまっているのだ。

ーーそうしないと溺れてしまいそうだから。

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