トラスト・ファンド・ベイビー 〜信託金目当てだったはずの金髪碧眼な資産家俳優に、私の絵ごと狙われています〜
葵は幼少期から大人しいとよく言われ、それでも絵を描くことで自分らしさを表現していた。

うちに秘める大きな夢に心を静かに燃やして、一皮剥けたいと自分から家族に強請ったのが二週間の短期ホームステイ。

あの当時、自ら一歩踏み出してアメリカの地を踏んだ度胸が人生で最高潮だった。

あの経験がきっかけで変わったと一度は自信が持てた。

専門学生時代に商業作品の絵を担当するなど幸先のいい未来も手にしたつもりだった。

けれど思うように続かず、葵の自信は少しずつすり減って、今やこの通り。

鳴かず飛ばずの中途半端な人生。

擦り減った自信は見た目にも現れて、服も化粧も最低限。

作品作りで汚れるからと言い訳しているが、本当はただ自分に価値がないよう感じているだけ。

「こんな野暮ったい女にかまってないで、さっさと自分の世界におかえりください」

リアムと並べば余計に自分がみっともなく感じる葵は疎まし気に告げた。

しかしリアムは何が面白いのか、ふっと吐息を溢せば双眸を細めた。

「はは、丁度いい。野暮ったい自覚はあるんだな」
「なんでそこだけ反応するのかな……」

自分で言ったものの相手にはっきり言われるとモヤモヤするのが人間だ。

怪訝な面持ちで、声は自ずと低くなる。

それなのにリアムは葵の腕を取って、ジオが待っているであろう車へと視線を流した。

「アビーはもっと輝くべきだ。髪を切りに行こう」
「髪……?待って、なんでそうなるの!?」

脈絡なく連れ去ろうとするリアムの腕を引き止めたが、しかしギラついた夏の海のような瞳が葵を捉える。

そしてリアム節とも言える言葉が落ちてきた。

「整った髪こそ勝者の証しだ。違うか?」

違うもなにも、やはり相変わらず答えになっていない。

「君のその猫背も治そう。僕の妻になるんだから、胸を張ってもらわないとな」
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