トラスト・ファンド・ベイビー 〜信託金目当てだったはずの金髪碧眼な資産家俳優に、私の絵ごと狙われています〜
④埋もれきったダイヤモンド
強引な相手に対して最後まで強気でいられないのが葵という人間だ。
しかも相手はリアム・ギルフォード。
結婚の断り文句に自分は野暮ったいという自虐を込めれば、待っていましたとばかりに連行された。
整った髪は勝者の証などという独自の金言付きで。
辿り着いたのは普段ほとんど縁のない銀座。
表通りに佇む伝統的な造りのビルへ誘われ、リアムが押したエレベーターのボタンは五階。
髪を切ろうと言われたものの、特にフロア案内の表記がないので視覚的な情報が得られなかった。
「ここは?」
「僕らのオフィスになる予定の場所だ。日本にも拠点があった方がいいだろ?ビルごと買ったんだ」
リアムは片目を閉じ、サプライズだと言わんばかりに得意気な顔をした。
「僕らって……ビルごと!?」
「銀座は嫌だった?」
「そういう問題じゃなくて……」
「なら良かった。ここに美容チームを用意している。支払いは気にしなくていい」
口を開閉している間に『五階です』とアナウンスが流れ、扉が開く。
到着したフロアには眩しいほどの灯りが幾つもついて、白壁をバックに小洒落た出立ちの外国籍の人間が数名待ち構えていた。
「最上階は僕らの住まいにして、一階から三階をオフィスと作業場にしようと考えてる。ここは衣装部屋とヘアメイク専用にするつもりで手配していたから丁度良かった」
何が、どう丁度いいのか葵には理解しかねたが、美容チームのうちの一人がリアムの元へやってきて伺いを立て始めたので口を挟めない。
しかもシザーポーチをつけた赤髪の女性に促され、葵は図らずも鏡の前へ座らされる。
もう十ヶ月以上もヘアサロンへ行っていない髪は切れ毛も枝毛も目立ち、毛量もコントロール出来ていない。
まったく手入れが行く届いてない現実が、店内の眩い灯りに責められるように照らし出されている。
そんな葵の放置された髪を見て、リアムは淡々と指示を出す。
『彼女のイメージを変えたい。昔みたいにショートがいいな。肩につかない長さのものを。ただし前髪は作らないでくれ。必要ならエクステで流せるようにして欲しい。彼女は直線的なシルエットが似合うだろうから……』
既に完成イメージでもあるのか、流れるように希望を伝える姿に戸惑い、葵は振り返って声をかけた。
「リ、リアム!このままで良いよ、私」
これはボサボサ頭をひとまとめにしていつも過ごしていた自分の無頓着を恥じた発言でもある。
「手入れがなってなさすぎる」
「それは……」
忙しいから、創作時間が惜しいから、気合を入れる努力とお金の相対効果に疑問を感じたから。
そんなのは、ただの言い訳だと分かっている。
自分をほったらかす正当な理由をつけて、前に進めないだけ。
対して、リアムは鏡に映る葵ではなく、直接、葵の髪に触れながら自論を述べる。
「せっかくの綺麗な顔が髪で台無しだ。ロングヘアの手入れが出来ないなら、髪を切るべきだ」
綺麗と褒められているのに、葵の人生の迷いも息苦しさも全てすっ飛ばしてしまったような言葉に心臓を叩かれたような痛みを感じた。
しかも相手はリアム・ギルフォード。
結婚の断り文句に自分は野暮ったいという自虐を込めれば、待っていましたとばかりに連行された。
整った髪は勝者の証などという独自の金言付きで。
辿り着いたのは普段ほとんど縁のない銀座。
表通りに佇む伝統的な造りのビルへ誘われ、リアムが押したエレベーターのボタンは五階。
髪を切ろうと言われたものの、特にフロア案内の表記がないので視覚的な情報が得られなかった。
「ここは?」
「僕らのオフィスになる予定の場所だ。日本にも拠点があった方がいいだろ?ビルごと買ったんだ」
リアムは片目を閉じ、サプライズだと言わんばかりに得意気な顔をした。
「僕らって……ビルごと!?」
「銀座は嫌だった?」
「そういう問題じゃなくて……」
「なら良かった。ここに美容チームを用意している。支払いは気にしなくていい」
口を開閉している間に『五階です』とアナウンスが流れ、扉が開く。
到着したフロアには眩しいほどの灯りが幾つもついて、白壁をバックに小洒落た出立ちの外国籍の人間が数名待ち構えていた。
「最上階は僕らの住まいにして、一階から三階をオフィスと作業場にしようと考えてる。ここは衣装部屋とヘアメイク専用にするつもりで手配していたから丁度良かった」
何が、どう丁度いいのか葵には理解しかねたが、美容チームのうちの一人がリアムの元へやってきて伺いを立て始めたので口を挟めない。
しかもシザーポーチをつけた赤髪の女性に促され、葵は図らずも鏡の前へ座らされる。
もう十ヶ月以上もヘアサロンへ行っていない髪は切れ毛も枝毛も目立ち、毛量もコントロール出来ていない。
まったく手入れが行く届いてない現実が、店内の眩い灯りに責められるように照らし出されている。
そんな葵の放置された髪を見て、リアムは淡々と指示を出す。
『彼女のイメージを変えたい。昔みたいにショートがいいな。肩につかない長さのものを。ただし前髪は作らないでくれ。必要ならエクステで流せるようにして欲しい。彼女は直線的なシルエットが似合うだろうから……』
既に完成イメージでもあるのか、流れるように希望を伝える姿に戸惑い、葵は振り返って声をかけた。
「リ、リアム!このままで良いよ、私」
これはボサボサ頭をひとまとめにしていつも過ごしていた自分の無頓着を恥じた発言でもある。
「手入れがなってなさすぎる」
「それは……」
忙しいから、創作時間が惜しいから、気合を入れる努力とお金の相対効果に疑問を感じたから。
そんなのは、ただの言い訳だと分かっている。
自分をほったらかす正当な理由をつけて、前に進めないだけ。
対して、リアムは鏡に映る葵ではなく、直接、葵の髪に触れながら自論を述べる。
「せっかくの綺麗な顔が髪で台無しだ。ロングヘアの手入れが出来ないなら、髪を切るべきだ」
綺麗と褒められているのに、葵の人生の迷いも息苦しさも全てすっ飛ばしてしまったような言葉に心臓を叩かれたような痛みを感じた。