虚無に咲く華
そのとき――。
ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴った。
女は弾かれたように立ち上がった。
そして玄関へ続くドアの陰へ駆け込み、姿を隠してしまった。
裕也が振り向く。
「……おい」
大河も立ち上がった。
「裕也さん、私が出ます」
「ああ」
大河が玄関へ向かい、扉を開けた。
「もうっ! いつも突然なんだから!」
甲高い声とともに、美しい女性が入ってきた。
長い髪を綺麗に整え、上品なコートを羽織っている。
裕也の幼なじみ、雅だった。
「雅さん、お疲れさまです」
「あら、大河もいたの?」
「はい」
「相変わらず真面目ねぇ」
「恐れ入ります」
雅はヒールを脱ぎ、リビングへ入るなり裕也を見つけた。
「裕也! いったい何なのよ! 怪我でもしたの? 消毒とか言ってたけど!」
「してねぇよ」
雅は裕也の顔を覗き込んだ。
「それとも……久しぶりに私に甘えたくなったわけ?」
そう言いながら、裕也の肩に腕を回そうとする。
「ちげーよ! そういうんじゃねぇ!」
裕也は雅の腕を払いのけた。
「もう! 久しぶりなのに冷たいんだから!」
大河は目のやり場に困りながら、見て見ぬ振りをした。
「いいから、とりあえず座れ!」
「はいはい!」
雅は不満そうに唇を尖らせ、ソファーへ腰を下ろした。
裕也は玄関へ続くドアに目を向けた。
「おい! 大丈夫だ。怖くねぇから出てこいよ」
雅が首をかしげる。
「……何?」
裕也はドアの方を見たまま、もう一度声をかけた。
「ほら、出てこいって」
雅も振り返った。
ドアの陰から、長い黒髪がわずかに覗いている。
「……誰かいるの?」
裕也は立ち上がり、ゆっくりとドアへ近づいた。
扉の裏には、女が壁に背中をつけて立っていた。