虚無に咲く華
風呂から上がると、雅は女を脱衣所の椅子に座らせた。
持参した救急用品を広げ、傷の状態を一つずつ確かめていく。
「ちょっと見せてね」
腕や膝には新しい擦り傷があり、乾いた血がこびりついていた。
雅はぬるま湯で汚れを落とし、清潔なガーゼを当てた。
古い傷痕の中には、盛り上がって硬くなったものもある。
女は痛みを訴えることもなく、じっと手元を見つめていた。
雅は足元へ視線を移した。
脛には、広い範囲にわたって皮膚が引きつれたような痕が残っている。
(……火傷の痕?)
さらに足先を見た瞬間、雅の手が止まった。
片方の足の指が一本、なかった。
欠損した部分は不規則な形に塞がり、隣の指も斜めに変形している。
雅は思わず顔を上げた。
女は何も言わず、床を見つめていた。
(……どうして、こんな……)
胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
涙がこぼれそうになり、雅はそっと唇を噛んだ。
けれど、目の前の女を不安にさせたくなかった。
雅は小さく息を整え、いつもの声に戻した。
「……もう少しだからね」
手当てを終えると、持ってきた柔らかいスウェットを広げた。
「私の服なんだけど……大丈夫かな?」
女は服を見つめ、小さく頷いた。
「よかった。これ、暖かいのよ」
雅は着替えを手伝い、濡れた髪をタオルで丁寧に拭いた。
汚れが落ちた顔には、整った目鼻立ちが現れていた。
長いまつ毛に、白い肌。
けれど、その頬にはまだ痛々しい痣が残っている。
雅は女の髪を整えながら、鏡越しに微笑んだ。
「……綺麗な顔してるじゃない」
女は鏡を見たまま、何も答えなかった。
雅は櫛を置き、女の隣にしゃがんだ。
「あなたのこと、いろいろ知りたいとは思うの」
女は雅へ目を向けた。
「でも、今すぐ話さなくていいからね。簡単に話せるようなことじゃないと思うし」
雅は優しく微笑んだ。
「話したくなったときでいいから」