虚無に咲く華
女はじっと雅を見つめていた。
「……お腹、すいてる?」
小さく頷く。
「何が食べたい?」
返事はない。
「そっか。じゃあ、何か作るね」
雅は立ち上がり、浴室の扉を開けた。
「行こうか」
女はゆっくりと立ち上がり、雅の後について歩き始めた。
⸻
リビングでは、裕也がソファーに座り、タバコを吸っていた。
大河はテーブルに置かれた携帯電話を確認している。
廊下から足音が聞こえ、二人が顔を上げた。
雅に続いて、女が姿を現した。
裕也はタバコを灰皿に押しつけ、女を見た。
「おお! 捨て猫がキレイになったな」
女は足を止めた。
裕也は顔を覗き込むようにして、にやりと笑った。
「ってか、お前、美人だな」
「もう! 裕也! あんたねぇ!」
雅が裕也の肩を軽く叩いた。
「悪かったって!」
裕也は笑いながら両手を上げた。
大河も女の姿を見て、少し驚いたようだった。
「……随分、印象が変わりましたね」
「でしょう? でも、まだ傷があるから、気をつけてあげてね」
「承知しました」
大河はソファーの上にあったクッションを脇へ寄せ、座る場所を空けた。
「こちらへどうぞ」
女は大河を見たあと、ゆっくりとソファーに腰を下ろした。
大河はそれを確認してから、一歩離れた。
雅はキッチンへ向かった。
「さて、何か作ろうかしら」
冷蔵庫を開ける。
「…………」
上の段。
下の段。
野菜室。
雅はもう一度、上の段を確認した。
「ちょっと! 裕也!」
「あ?」
「何にもないじゃない!」
「冷凍あるだろ!」
「そういう問題じゃないでしょ!」
「食えりゃいいんだよ!」
「もう! ほんっとに……!」
雅は呆れながら冷凍庫を開けた。
そのやり取りを、女はソファーからじっと見ていた。
裕也がふと思い出したように立ち上がる。
「あっ、そうだ」
キッチンへ行き、冷蔵庫から牛乳を取り出した。
マグカップに注ぎ、電子レンジへ入れる。
しばらくして、電子音が鳴った。
裕也はカップを取り出し、女の前に置いた。
「寒かっただろ。これ、飲めよ」
白い湯気がゆっくりと立ち上っている。
温かいミルクだった。