大正初恋浪漫譚ー軍人少尉と婚約は突然にー
第六章 気づかぬ恋、芽生える想い
夏の陽射しが、通り沿いの青葉をきらきらと照らしていた。
女学校の授業を終えた小春は、鞄を片手に、葛城家へと続く道を歩いていた。
花嫁修業が始まってからというもの、放課後の過ごし方も以前とは少し変わった。
学校が終われば葛城家へ向かい、裁縫や礼儀作法を習う。
慣れないことも多いけれど、新しいことを覚えるのは嫌いではなかった。
もっとも、毎日おとなしく修業に励んでいるかといえば、そうとも限らないのだが。
「おう、小春!」
聞き覚えのある声に顔を上げると、道の先に見慣れた少年が立っていた。
片手を上げ、いかにも気楽そうな顔でこちらを見ている。
「あ、律。どうしたの、こんなところで」
「どうしたもこうしたもあるか。俺だってこの道を通るんだよ」
「そう? あんたいつもは反対の道から帰るじゃない」
「……よく覚えてるな、そんなこと」
「当たり前でしょう。何年一緒にいると思ってるの?」
小春が得意げに胸を張ると、律は呆れたように笑った。
「まったく、そういうところだけは昔から変わらないな」
「どういう意味よ、それ!」
「褒めてるんだよ」
「嘘ばっかり!」
小春が頬を膨らませると、律はとうとう声を立てて笑った。