大正初恋浪漫譚ー陸軍少尉と婚約は突然にー
いつもの調子だった。
何も変わらない。
幼い頃から幾度となく繰り返してきた、他愛もないやり取り。
けれど、律の胸の内には、以前にはなかった思いがひとつ、重く居座っていた。
「……で、許婚殿とはどうなんだ?」
不意に、律が尋ねた。
小春はきょとんとして、それから、ああ、と小さく頷いた。
「少尉のこと?」
「ほかに誰がいるんだよ」
「そうねえ……」
小春は少し考えるように、視線を上げた。
「以前は、どんな方なのかなって、まだわからないことばかりだったけれど……最近は、少しずつお人柄が見えてきた気がする」
「へえ」
「優しい人よ。ご自分のことより、周りの方のことを先に考えてくれる。ばあやが困っていたときも、すぐに気づいて手を貸してくださったし、私が慣れないことをしていても、決して急かしたり、笑ったりなさらないの」
小春は、葛城家で過ごした時間を思い返すように、ゆっくりと言葉を続けた。
「それに、穏やかに見えるけれど、芯の強い人なのだと思うわ。軍人としてのお務めにはとても真面目で、責任を持って向き合っていらっしゃるし……でも、私には無理をしているように見えることもあるの」
「無理を?」
律の声が、わずかに低くなった。