大正初恋浪漫譚ー陸軍少尉と婚約は突然にー
「ええ。いつも落ち着いていらっしゃるけれど、何でもご自分で抱え込んでしまうところがあるみたい。だから、もっと気楽に話してくださればいいのにって思うのよ」
小春はそう言って、少し困ったように笑った。
「まだ、少尉のすべてを知っているわけではないけれど、以前のように、何も知らない人だとは思っていない。一緒に過ごすたびに新しい一面が見えてくるし、私も少しずつ、あの人のことを知っていけたらと思っているの」
その笑顔を見た瞬間、律の胸の奥が、ちくりと痛んだ。
小春が千紘のことを、これほど具体的に話すのを聞いたのは初めてだった。
優しい人。
責任感の強い人。
けれど、どこか無理をしている人。
小春はもう、千紘を突然決まった縁談の相手として見ているだけではない。
彼の言葉や仕草を覚え、その人柄を知ろうとしている。
そして、知ったことを嬉しそうに語っている。
「……ずいぶん、よく見てるんだな」
律は、できるだけいつもどおりの声で言った。
「そうかな?」
「そうだろ。許婚殿のことになると、随分と饒舌じゃないか」
「もう、からかわないでよ」
「からかってなんかないさ」
律は笑った。