大正初恋浪漫譚ー陸軍少尉と婚約は突然にー
…けれど、その笑みは自分でもわかるほど、わずかに引きつっていた。
「ただ、許婚殿も幸せ者だなと思っただけだよ。そんなふうに見てもらえてるんだから」
「……そうかな」
小春は少し照れたように目を伏せた。
「私は、まだ何もできていない。花嫁修業だって始まったばかりだし、少尉や葛城家のお役に立てるようになるには、もっと勉強しなくちゃ」
「小春が?」
「何よ、その言い方は!」
「いや、葛城家の奥方様が、針仕事で指を刺して癇癪を起こしてる姿が目に浮かんだだけだ」
「さっきと同じことを言っているじゃない!」
小春がむっとして彼の腕を叩く。
律は笑いながら身をかわした。
小春の前では、いつもどおりに振る舞うことができた。
からかって、言い返されて、笑い合う。
そうしていれば、何も変わっていないように思えた。
少なくとも、小春には。