大正初恋浪漫譚ー陸軍少尉と婚約は突然にー
その日の午後、私は落ち着かない気持ちを抱えたまま、客間へと向かった。
父の隣に座り、膝の上で両手を重ねる。
ほどなくして、廊下から足音が聞こえた。
「失礼いたします」
障子の向こうから、聞き覚えのある声がした。
父が入室を促す。
障子が開き、軍服姿の男性が姿を現した。
背筋の伸びた、凛とした佇まい。
以前お会いしたときと変わらぬ、端正な面差しがあった。
「葛城千紘、只今参りました」
少尉は父と兄に一礼してから、私のほうへ向き直った。
「小春さん、お久しぶりです」
「……お久しぶりでございます」
私は慌てて頭を下げた。
何を話せばよいのだろう。
そう考えているうちに、父が口を開いた。
「今日はゆっくりしていくとよい。小春も、少尉と話をしてみるといいだろう」
「はい」
返事をしたものの、胸の内は少しも落ち着かなかった。