大正初恋浪漫譚ー陸軍少尉と婚約は突然にー
少尉は私の向かいに腰を下ろした。
父と兄と言葉を交わしている少尉を、私はちらっと盗み見ていた時、彼と目が合ってしまった。
「小春さん、女学校には、毎日通われているのですか」
「はい。毎日、楽しく通っております」
「それは何よりです。学業のほうも、お忙しいのでしょうね」
「いえ、そんなことは……」
言葉が途切れた。
少尉は穏やかな表情で私を見ている。
決して威圧的ではない。
むしろ、こちらが話しやすいように気を遣ってくださっているのがわかった。
それでも、何を話せばよいのか思いつかない。
こうして向かい合ってみても、やはり知らないことばかりである。
「……小春さん?」
「は、はい!」
考え込んでいた私は、思わず声を上ずらせた。
少尉がわずかに目を見開く。
「いえ、失礼いたしました。何か考え事をなさっていたようでしたので」
「申し訳ございません……」
恥ずかしさに、頬が熱くなった。
少尉はそれ以上追及せず、静かに微笑んだ。
「どうか、お気になさらず」
その笑顔は、思っていたよりもずっと柔らかかった。
私は少しだけ、肩の力が抜けるのを感じた。
きっと、悪い方ではないのだろう。
父も兄も信頼している。
礼儀正しく、物腰も穏やかである。
…けれど。
それだけで、この方と夫婦になりたいと思えるかと問われれば、答えは出なかった。