大正初恋浪漫譚ー陸軍少尉と婚約は突然にー
少尉が帰られたあと、客間には、どこか落ち着かない静けさが残っていた。
「さて、小春。お前はどう思った?」
父に尋ねられ、私は膝の上で両手を握りしめた。
「……礼儀正しくて、お優しい方だと思います」
それは嘘ではなかった。
短い時間ではあったけれど、少尉が穏やかで、思いやりのある方だということは、私にもわかった。
けれど、それだけだった。
「そうだろう。家柄も申し分ない。軍人としての将来もある。あれほどの人物なら、お前を安心して任せられる」
「お父様、私は……」
「お前も、これから少しずつあの人を知っていけばよい。まずは縁談を進めようと思う」
「お待ちくださいませ!」
思わず声が大きくなった。
父が眉を寄せる。
隣に座っていた兄も、こちらに視線を向けた。
「私は、まだ結婚するなんて申し上げておりません」
「小春」
「葛城少尉が立派な方だということはわかりました。でも、私はあの方のことを何も知らないのです。好きなものも、お考えも、どんなときにお怒りになるのかさえ……」
「そのようなことは、これから知っていけばよい」
「では、どうして結婚することだけ、先に決めてしまうのですか?」