大正初恋浪漫譚ー陸軍少尉と婚約は突然にー
胸の奥に押し込めていた言葉が、次々とこぼれ出てくる。
「私は……自分の好きな方と結婚したいのです。お家のためでも、誰かにとって都合がよいからでもなく、自分でこの方と一緒になりたいと思える方と……」
最後のほうは、声が震えてしまった。
お父様はしばらく黙っていたが、やがて深く息を吐いた。
「お前の気持ちはわかった。だが、わしもお前の将来を考えてのことだ。すぐに返事をしろとは言わん。もう少し、少尉と会ってみなさい」
そう言い残すと、お父様は席を立った。
重い足音が遠ざかり、客間には私と兄だけが残された。
「……小春」
兄の声に、私は顔を上げなかった。
叱られるのだろうか。
兄は少尉の親友だ。
きっと、私があの方との縁談を嫌がっていることを、快く思っていないに違いない。
「お前の言いたいことは、わかるよ」
思いがけない言葉に、私は顔を上げた。
兄は困ったように笑っていた。
「俺だって、よく知りもしない相手と結婚しろと言われたら、すぐには頷けないだろうからな」
「お兄様……」
「ただな、葛城は悪い男じゃない。それだけは、俺が保証する」