大正初恋浪漫譚ー陸軍少尉と婚約は突然にー
兄の声は、いつになく真剣だった。
「お前を大切にしてくれる男だと思う。だから、俺はあいつとの縁談には賛成している」
「……お兄様は、あの方と私が結婚すれば、それでよいのですか?」
「まさか」
兄はすぐに首を振った。
「お前が嫌がっているのに、無理に結婚させたいわけじゃない。お前の人生だからな」
その言葉に、胸の奥が少しだけ緩んだ。
けれど、兄は続けた。
「ただ……今すぐ好きになれとは言わない。あいつを知る前から、嫌わないでやってくれ」
私は返事ができなかった。
兄の言葉には、ただ縁談をまとめたいというだけではない、何か特別な思いがこもっているように感じられた。
「……私は、嫌っているわけではありません」
ようやく、それだけ答えた。
「ただ、まだ何もわからないのです。あの方がどんな人なのかも、私自身がどう思うのかも」
「ああ。それでいいんだ」
兄は静かに頷いた。
「だからこそ、もう少し話してみればいい。好きになるかどうかは、そのあとで考えたって遅くないだろう?」