大正初恋浪漫譚ー陸軍少尉と婚約は突然にー
ばあやは気づかない様子で、さらに言葉を続ける。
「お嬢様の旦那様になられるお方が、あのようにお優しい方でしたら、私も安心でございます」
「だ、旦那様って……!」
思わず声が裏返った。
ばあやはきょとんとした顔で小春を見つめる。
「あら、何かおかしなことを申し上げましたか?」
「お、おかしいというわけではないけれど……!」
小春は慌てて首を振った。
「まだ、そうと決まったわけではないでしょう?」
「まあ、そうでございますねえ」
ばあやは、少しも悪びれることなく笑った。
「けれど、お嬢様のことを大切にしてくださる方でしたら、私は嬉しゅうございますよ」
その言葉に、小春は返事ができなくなった。
自分のことを大切にしてくれる人。
果たして、千紘はそういう人なのだろうか。
今日、彼が気遣ってくれたのは、ばあやだった。
自分に対しては、いつもと変わらず礼儀正しく、どこかよそよそしい。
それでも。
ばあやに向けた、あの穏やかな眼差しを思い出すと、胸の奥がほんの少しだけ温かくなる。
「……別に、あの方がどういうお方だって、私には関係ないわ」
小春は、ついそんなことを口にした。
ばあやは不思議そうに首を傾げる。