大正初恋浪漫譚ー陸軍少尉と婚約は突然にー
葛城家の門前に人力車が止まったのは、午前十時を少し回った頃だった。
小春は車夫に礼を告げ、差し出された手を借りて地面へと降り立った。
目の前には、手入れの行き届いた庭木と、重厚な構えの屋敷が広がっている。
自分の生家もそれなりに格式のある家ではあったが、葛城家にはまた違った厳かな空気が漂っていた。
長い年月を重ねた門構えも、玄関へと続く石畳も、どこか隙のない佇まいを見せている。
小春は思わず背筋を伸ばした。
今日から、ここが自分の花嫁修業の場となる。
そう考えた途端、先ほどまで落ち着いていた心が、再びそわそわと騒ぎ始めた。
女学校での作法の稽古なら、いくらでも経験がある。
家でも父やばあやから教わってきたし、客人を迎える際の心得だって、ひととおりは身についているつもりだった。
それでも、婚約者の家となれば話は別である。
ましてや、その婚約者本人が、これからすぐそばにいるのだ。