大正初恋浪漫譚ー軍人少尉と婚約は突然にー
第五章 初夏の風と淡い予感
初夏の風が、葛城家の庭を吹き抜けていった。
庭木の青葉は日に日に色を濃くし、縁側に差し込む陽射しにも、春とは違う明るさが宿っている。
小春が葛城家で花嫁修業を始めてから、幾日かが過ぎていた。
初めの頃は、何をするにも緊張していた。
佐和に教わる家事の一つひとつも、慣れないことばかりで、思うようにいかぬたびに悔しい思いをした。
それでも、小春は持ち前の負けん気で、決して投げ出そうとはしなかった。
失敗すれば、次こそはと心に決める。
上手くできれば、嬉しさを隠しきれず、ぱっと顔を輝かせる。
そんな小春の様子に、佐和も時折、目元を和らげるようになっていた。
「小春さん、ずいぶんと手際がよくなりましたね」
「本当ですか?」
小春は、思わず身を乗り出した。
「ええ。初めの頃に比べれば、見違えるほどですよ」
「やったぁ…!」
褒められたことがよほど嬉しかったのだろう。
小春は頬を緩めたあと、はっとしたように背筋を伸ばした。
「でも、まだまだです。もっと精進しなくては!」
その勢いに、佐和はとうとう小さく笑った。
「まあまあ。あまり気を張りすぎてもいけませんよ」
「はい!」