大正初恋浪漫譚ー陸軍少尉と婚約は突然にー
明るい返事が、初夏の陽射しの中に弾んだ。
その声を、廊下を通りかかった千紘が耳にした。
足を止め、そっと座敷の方へ目を向ける。
小春は佐和と向かい合い、何やら楽しそうに話していた。
笑うと、表情がころころと変わる。
嬉しいときには隠しきれず、悔しいときにはすぐ顔に出る。
ずいぶんと分かりやすい人だ、と千紘は思う。
けれど、その素直さが、彼にはひどく眩しかった。
初めて会った頃は、どこか緊張した面持ちで、自分の顔色を窺っているようにも見えた。
それが今では、少しずつではあるが、自然な笑顔を見せてくれるようになった。
そのことが、千紘には何より嬉しかった。
「……少尉?」
不意に声をかけられ、千紘は我に返った。
顔を向けると、廊下の向こうから小春がこちらを見ていた。
「何をなさっているのですか?」
「いえ。通りかかっただけです」
「そうなのですか?」
小春は不思議そうに首を傾げたあと、ふと思い出したように顔を輝かせた。