大正初恋浪漫譚ー陸軍少尉と婚約は突然にー
小春はきっと、自分がどんな顔をしていたのか、気づいていないのだろう。
彼女の何気ない気遣いが、どれほど嬉しいものか。
それを伝えるには、まだ少しばかり勇気が足りなかった。
小春は小さく会釈をすると、再び佐和の待つ座敷へと戻っていった。
その後ろ姿を、千紘はしばらく見送っていた。
青葉を揺らす風が、静かに廊下を通り抜ける。
いつか、彼女が自分の隣で、今のような笑顔を見せてくれる日が来るだろうか。
そんなことを考えてしまう自分に、千紘は苦笑した。
急いではいけない。
小春には、小春の歩む速さがある。
彼女が自分を知ろうとしてくれるのなら、それだけで十分だった。