こっちを、むいて。
川越から有名進学校真星学園に通う平沢さんに手伝ってもらい、オレはなんとか真星組と同じ塾への入塾許可を得た。

死に物狂いで勉強した。

寝る間も惜しんで机に向かい、いつか吐血するんじゃないかと思うくらいにまでフラフラだった。

そんな1週間を乗り越え、オレはようやく一息つける。


キーンコーンカーンコーン。


鐘が鳴って待ちに待った昼休み。

入塾テストの予想問題を解いて過ごしていたこの時間をさすがの今日は…今日くらいは息抜きしたい。

教室でぼーっとしていると口が達者の倉石さんに話しかけられかねないし、何より彼女の惚気話を聞くのが耐えられないからオレは教室を出た。

向かった先は屋上。

バレンタインの時振られて以来来ていない。

ドアは噛み合わせが悪くてすきま風が階段まで吹いてくる。

フェンスは錆びてて危険だし、わりと誰も近寄らないんだよな。

穴場のここで春風に吹かれながらひと眠りして午後の授業を寝ずに受けて塾へ向かわねば。

オレはそんなことを思いながらドアノブを回した。

向こう側の景色はあの時より青々として鮮やかだ。

気を抜いたら吸い込まれそうな真っ青な空に、

小高い山もはっきり見える。

少し視線を下すと小江戸と称される観光地川越の街並みが見えて…。


「おっ、と」


視線の先に先客がいた。

誰もいるはずがないと思っていたからびっくりして思わず声を上げてしまった。

一瞥して踵を返す。

真新しい制服。

きっと新入生だ。

こんなとこに1人って…。

入学早々ぼっち飯をキメるなんて、さ。

相当な変わり者だよな。

そんなやつと関わると面倒なことになりそうだからオレは別の場所へ向かう。

さて、どこへ向かおうか。

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