木の下の奏者たち― 桜の木がつないだ声 ―
今、自分は不思議な体験をしている。
人と演奏するのは、初めてではない。
けれど、姿の見えない相手と一緒に演奏するなんて。
きっとこの先、二度とできない体験だろう。
祖母は今、この曲を聞いているのだろうか。
あの青い空の向こうから。
祖母のことを思い、楓はまた涙がこみ上げてきた。
けれど、かなたの尺八の音を聞いていると、心強く、穏やかな気持ちになった。
ふいに風が吹き、桜の花びらが舞い落ちた。
まるで、祖母が自分とかなたの出会いを祝福しているようだと、楓は思った。
◇
演奏を終えると、二人は少しずつ、お互いのことを話した。
かなたが自分の祖父の話をしてくれたように、楓も自分の祖母のことを話した。
祖母が最近亡くなったこと、しばらく祖母の家で暮らすことになったこと。
ひと通り話し終えると、楓は気になっていたことを尋ねた。
「かなたさんのおじいさんが聞いた女の子の声って、祖母のことでしょうか」
「わかりませんが、その可能性はありますね」
「だとしたら、どうして祖母は『妖精』だなんて言ったのでしょう?」
「そうですね……」
かなたは、しばらく考え込んだ。
「楓さんのおばあさんは、最後まで祖父が自分とは違う時代に生きている人間だと気づかなかったのかもしれませんね」
そこで一度言葉を切り、さらに続けた。
「あるいは、楓さんのお母さんに分かりやすく説明するために、あえて『妖精』と言ったのかもしれませんね。『妖精』のほうが、夢もありますしね」