木の下の奏者たち― 桜の木がつないだ声 ―

楓は少し笑った。
同時に祖母のことを思い出した。祖母が亡くなったのは、つい先週の出来事だった。

楓がこの林のことを忘れていたのは、祖母の介護や家事の手伝いなどで忙しかったからだ。

祖母はおっとりしているけど、人のことをよく考える、優しい人だった。

母に夢を持たせるために「妖精さん」と話したのだとしても、祖母らしい気がした。

祖母のことを思い出すと、思わず涙が溢れ出した。

楓が黙っていると、かなたの心配そうな声が聞こえる。

「どうかしましたか?」

楓は慌てて答えた。

「いえ、大丈夫です。ちょっと、祖母のことを思い出しただけで」

「そうですか……祖父から話を聞いただけですが、きっと優しいおばあさまなんでしょうね」

かなたの穏やかな声と、気遣うような言葉に、楓の胸が熱くなった。

「はい。とても」
楓は答えた。
声しか聞こえないのに、かなたは温かい人だなと、楓は思った。

 

◇

話しているうちに、かなたは両親と弟と一緒に住んでいることが分かった。

今は、家の近くにある林の中にいるという。
ときどき自然を感じながら尺八を吹いたり、本を読んだりして過ごしているらしい。

楓は、かなたが自分と同じ、十五歳だと知って驚いた。
丁寧な言葉遣い、物腰の柔らかさ、落ち着いた低い声がとても大人びていた。

楓のクラスにも男の子はいるけれど、どこか幼く感じられて、どうしても好きにはなれなかった。

楓は、恋をしたことがない。

恋愛をするよりも、ヴァイオリンを弾いているほうが、ずっと楽しいと思っていた。

けれど、今日の出会いは、ヴァイオリンに触れた時と同じくらい、もしくはそれ以上に、楓の心をときめかせたのだ。


しばらく話していると、空がオレンジ色に染まり始めた。

そろそろ帰らないと、家族に心配かけてしまう。

名残惜しさを感じながら、楓は言った。

「あ、あの。私、そろそろ帰ります」

かなたは、特に驚く様子もなく答えた。
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