木の下の奏者たち― 桜の木がつないだ声 ―
「はい。また」
また……。
「はい」
小さく返事をすると、大きな木を背にして歩き出した。
◇
不思議な体験をした翌日。
今日も晴れていた。
昨日のはやっぱり何かの夢だったのではないかと思いながら、楓は学校から帰ると、ヴァイオリンを持って再びあの林に向かった。
大きな木が見えてきた。
あたりは、昨日と同じように静まり返っている。
木の幹にそっと触れた。
少し湿った、ざらざらした感触が手のひらに伝わってくる。
けれど、尺八の音は聞こえない。
やっぱり、夢だったのかな。
少しがっかりしながらも、楓はヴァイオリンを左肩に構え、昨日の曲を弾き始めた。
ヴァイオリンの音が静かに響く。
しばらく演奏を続けると、ふいに尺八の音が重なってきた。
驚いて、思わず手を止めそうになったけど、なんとか演奏を続けた。
演奏を終えた後、穏やかな声が届いた。
「こんにちは、楓さん」
「こ、こんにちは、かなた……さん」
夢じゃ、なかったんだ……。
「また聞こえましたね」
「はい」
また会えたではなく、また聞こえた。
ゴホッ、ゴホッ。
かなたの咳込む音がした。
「大丈夫ですか?」
しばらくして
「大丈夫ですよ」
と、静かな声が返ってきた。