木の下の奏者たち― 桜の木がつないだ声 ―
「そう。ひどいんです。だから私も、ほかの子たちもみんな嫌いで」
そう言ってから、楓ははっとした。
こんな話をしても大丈夫なのだろうか。
そもそも、大正時代の人にとっては、これくらいのことは当たり前なのでは。
けれど、かなたは穏やかな口調を崩さずに言った。
「人気がない先生なんですね」
楓は、「はい」と、小さな声で言った。
かなたは聞き上手だな、と楓は思った。
自分の話を否定せずに聞いてくれるので、いつの間にか、いろいろなことを話してしまっていた。
◇
それから、二人はほとんど毎日、言葉を交わすようになった。
木の下で一緒に演奏をしたり、お互いの演奏を聞いたり、たわいもない話をしたり。
楓は、学校から帰るとすぐにヴァイオリンを持って林へ向かうのが習慣になった。
休日は昼間から出かけて、夕方まで過ごすことが多かった。
学校や家族の都合、天気が悪いとき以外は、できるだけ林へ行くようにしていた。
家族には、そんな楓の様子を不思議そうにしていたが、ヴァイオリンを一緒に弾いてくれる友達がいると伝えたら、納得してくれた。
楓は、かなたのことは家族には話していなかった。なんとなく、自分だけの秘密にしたかったのだ。