木の下の奏者たち― 桜の木がつないだ声 ―
「圭っていう女の子で、明るくて……前に声をかけてくれたことはあったんです。でも、そのときは緊張しちゃって」
「うん」
「この前、勇気を出して話しかけたら、たくさん話をしてくれたんです」
「そうですか。楓さん、頑張ったんですね」
かなたの優しい言葉に、楓の胸が温かくなった。
◇
楓が林へ行くと、たいていかなたはいる。
もちろん、いない日もある。
それでも、次の日にまた林へ行くと、かなたはいた。
どうして来られなかったのか、あえて尋ねなかった。
毎日ここへ来ると、約束しているわけではないのだから。
季節は夏から秋へと移り変わった。
かなたがいる大正時代も、令和と同じ月日が流れていた。
「いつの間にか、紅葉の季節になりましたね。楓さんのところはどうですか」
「こちらもです。桜もいいですけど、紅葉もいいですよね」
「楓さんは、やっぱり秋生まれ?」
「はい……実は今日が誕生日で……」
「えっ、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「誕生日にここにいても、いいんですか」
「いいんです……」
「じゃあ、僕が何か曲を吹きましょう。何がいいですか」
「えっ……じゃあ……初めてかなたさんの尺八を聞いたときの曲がいいです」
◇
冬になり、林の中にも冷たい風が吹くようになった。
最近の楓は、厚着をして林に入るようになった。
ゴホッ、ゴホッ。
かなたの咳の咳き込む音が聞こえた。
「かなたさん……」
楓が心配そうに声をかけた。
しばらく咳は止まらなかった。
やがて、
「すみません。少し風邪を引いただけです。大丈夫です」
穏やかな口調だけど、いつもより弱々しい声が返ってきた。