木の下の奏者たち― 桜の木がつないだ声 ―
「その曲、好きですね」
「僕のお気に入りです」
楓は立ち上がり、ヴァイオリンを構えた。
そして、かなたのために弓を滑らせた。
かなたは――。
病気の影響で、尺八を吹くことが難しくなっていた。
◇
楓は、紅葉した木を見上げた。
「私、秋は嫌いです」
「どうして?」
「もうすぐ、冬が来るから……」
「僕は、好きですよ、秋の季節」
かなたは穏やかな口調で言った。
「散歩がしやすくなるし、楓の葉が……とてもきれいですから」
楓は頬が熱くなり、思わず膝に顔を埋めた。
「楓さん」
かなたが優しく呼びかける。
「お誕生日、おめでとうございます」
そして、二度目の、また少ししか声を聞けない寂しい冬が訪れた。
やがて季節は巡り、春になった。
◇
「楓さん?」
かなたに呼ばれ、楓ははっとした。
いつの間にか、かなたとの思い出に耽っていて、呼びかけに気づかなかったらしい。
「あ、ごめんなさい。考えごとしてしまって」
「考えごと?」
「今までのことを思い出していました」
楓は少し恥ずかしそうに答えた。
かなたの小さな笑い声が聞こえた。
「そうでしたか。こうしてお話しするようになってから、いつの間にか時間も経ちましたね」
「そうですね」
楓も笑った。
楓は、木にもたれかかって立っていると、背中越しに温もりが伝わってきた。
「楓さん」
「はい」
「実は僕……今日は、楓さんに伝えないといけないことがあるんです」
かなたの声は、いつもより重かった。