木の下の奏者たち― 桜の木がつないだ声 ―
楓の胸に不安が広がる。
悪い予感がして、耳を塞いでしまいたくなった。
「一週間後、僕はこの町からずっと遠くに引っ越すことになりました」
楓は息を呑んだ。
「僕は小さい頃から、あまり長くは生きられないだろうと言われていました」
(そう、だったんだ……)
「でも、両親がずっと頑張ってくれていて、最近、いいお医者さんを見つけてくれたんです。一週間後に引っ越して、そのまま入院をすることになりました」
かなたは、辛そうな声で続けた。
「治療が終わっても、戻って来れるか分かりません」
頭を、重たいもので殴られたような気がした。
足が震え、うまく立てず、思わず座り込んだ。
わかっていた……。
始まりがあれば、いつか終わりが来る。
それでも、その終わりはもっと先のことだと、勝手に思っていた。
楓は、なんとか口を開いた。
頬に涙が伝った。
「お医者さん……見つかってよかったですね」
「……はい」
楓は、桜の木を見つめた。
初めてかなたの声を聞いた時も、桜が咲いていた。
「治療、うまくいきます。絶対に」
楓がふりしぼるように出した声は、祈りをささげているような言葉だった。
「ありがとう、楓さん」
帰り道、楓は顔がぐしゃぐしゃになるほど泣いた。