木の下の奏者たち― 桜の木がつないだ声 ―
春や秋には、二人で手をつないで林の中を散策した。


夏には、木陰で並んで寝転がった。


冬は一緒に過ごす時間が減る代わりに、夢が増えた。


夢の中の二人は、お互いの温もりを確かめるように、抱きしめ合った。

どの夢でも、二人の間に会話はなかった。

夢のことをかなたに話すのは恥ずかしかったので、言っていない。



「夢の中では、その人の顔がはっきり見えていたのに、目が覚めると忘れちゃうんだ」

かなたに抱きしめられたとき、手をつないだときの、あの温かな感覚も。

目が覚めると、すべて消えてしまう。

「それが、いつもすごく悲しくて……寂しくて泣いちゃう」

言っているうちに、楓は気が付いた。

「私……その人のことがとても大切なんだ」

手が震え、視界が涙のせいでにじんだ。

圭は、そんな私をじっと見つめた。

「なら、できることは一つしかないじゃない」

「え?」

楓は目を見張った。

(できることが、あるの?)

「会いに行くのよ、何としてでも」

「会いに行くって……」

どうやって……?
そう思いかけて、楓ははっとした。

果たして、本当に会えないのだろうか。

最初から無理だと決めつけていたけど、こんな不思議な木があるくらいだ。

もしかしたら、少しでも望みはあらのかもしれない。

「ありがとう、圭。私、ちょっと頑張ってみる」

 楓はお弁当を急いで食べ終わると、片づけて立ち上がった。

「え、ちょっと!そ、その人ってどこで……」

圭は引き止める間もなく、楓は駆け出してしまった。

一人残された圭は、面食らったように瞬きをした。

(だ、大丈夫かな……)
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