木の下の奏者たち― 桜の木がつないだ声 ―
「楓さん。最後に……僕と演奏しませんか」
楓は驚いた。
「えっ。でも大丈夫なんですか?」
「最後の一節だけでも……どうしても、あなたと演奏がしたい」
(かなたさん……)
胸の奥から、熱い思いが込み上げてきた。
「はい」
楓はヴァイオリンを構え、二人が初めて声を聞いたときに演奏した曲を弾き始めた。
静かな林の中に、ヴァイオリンの音色が響く。
そして、曲の最後の一節に、二つの音が重なり合った。
久しぶりに聞く、かなたの尺八。
ほんの短い音だったのに、その音色はいつまでも楓の心に響き続けた。
◇
演奏を終え、かなたは言った。
「ありがとう、楓さん」
「こちらこそありがとう、かなたさん」
楓は木にそっと手を添えた。すると、かなたの手の温もりが伝わってきた。
「また」
かなたの静かな声がする。
「はい、また」
手の温もりがゆっくり離れていく。
◇
その日の夜、楓は夢を見た。
星がまばゆく輝く夜空の下。
散ったはずの桜が満開になった、あの林の中で、楓とかなたは向かい合って立っていた。
風が吹き、花びらがひらひらと舞い落ちる。
二人は、ゆっくりと歩み寄り、抱きしめ合って――
そしてキスをした。
唇を離すと、かなたは、また照れ笑いを浮かべていた。
楓の目が覚めると、やはり、かなたの顔も、唇の温かな感触も思い出せなくなっていた。