木の下の奏者たち― 桜の木がつないだ声 ―


◇


――五年後。

楓は二十二歳になった。

この五年間、楓はかなたと会う方法を探し続けた。

けれど、とうとう見つけることができなかった。

あのSNSに載せた投稿は、今も消さずに残している。

Maiさんとは、今でもやり取りが続いていた。

実は一度Maiさんに会ったのだ。
Maiさんは楓を自宅に招いてくれた。

家には、今年三歳になる、『アン』と名付けられた娘がいた。

Maiさんは、娘が生まれたとき、大好きな旧友に再会した気持ちになったのだと話してくれた。

楓は、その話をほほえましい気持ちで聞いていた。


五年間、いろいろあった。

それでも、かなたのことを一日たりとも忘れたことはなかった。

そして今日。

楓は、ヴァイオリンを入ったケースを手に、林へ向かっていた。

この日が来るのを、ずっと心待ちにしていた。

林の中は、五年前とさほど変わってない。

今年は桜の開花が遅かったのか、木々には満開の桜が咲いている。

楓は林の奥へと進んだ。

やがて、あの大きな木が姿を現した。
風に揺られた桜の花びらが、はらはらと舞い落ちている。


ゆっくりと木に近づく。

「かなたさん――」
名前を呼びながら、楓は木の幹にそっと触れた。

そして、はっとした。

何も感じなかった。

(かなたさんは、いない……)

楓は、その場にへなへなと座り込んだ。

治療はどうなったのだろうか。

かなたは無事なのだろうか。

もう、自分の声は届かないのだろうか。

いや。
きっと自分が来るのが早かっただけだ。
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